これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/11/07 医学書院

医学書院は、医学の専門書を扱う著名な出版社である。 学生向けの教科書である「標準」シリーズにも定評はあるが、 『標準精神医学』第 6 版や『標準脳神経外科学』第 13 版などの例外を除けば、全般にストーリー性が乏しいように思われる。 辞書のように使うならともかく、通読するには面白みを欠く。 『神経解剖カラーテキスト』第 2 版のような訳本は楽しめるが、これは原著者の力量に依るものであろう。 一方、辞書類に関しては、医学書院の書物は非常に優れている。 『医学書院 医学大辞典』第 2 版は、三年生の頃に友人の勧めで購入して以来、愛用している。 『臨床検査データブック』は、検査値について生理学的意義も含めて簡潔に記載しており、臨床実習等で大いに役立った。 『臨床中毒学』『認知症ハンドブック』などは、それぞれの分野について詳細に記載した辞書様教科書であり、 通読しようとすると眠くなるが、必要に応じて調べる分にはエキサイティングである。

このように、私は医学書院のファンであったのだが、同時に、近年の「標準」シリーズの傾向には懸念を抱いていた。 というのも、国家試験をやたらと意識するきらいがあり、巻末付録に「医師国家試験出題基準対照表」を掲載したり、 「重要語句」を太赤字で強調するなど、受験参考書としての色彩が強くなっているように感じられる。 天下の医学書院なのだから、学生に媚びて姑息的勉強を煽るのではなく、堂々と、医学的教科書を刊行して欲しかった。

昨日、たまたま生協書籍部で新刊をみていて、愕然とした。 医学書院の「シリーズ まとめてみた」が平積みされていたのである。 このシリーズは、今年の春頃にまとめて刊行されたものであるらしいが、私は、その存在を知らなかった。 医学書院のウェブサイトには「医学生待望! 究極の国試対策本シリーズ」などと書かれている。 帯に何と書いてあったか、正確なところは覚えていないが「医師国家試験に役立つ知識とテクニックをまとめてみました」というような内容であった。 同社のウェブサイトから「まえがき」を引用すると

学生時代に常々感じていたのは「もっと読みやすい参考書があればな〜」ということでした. 今の医学生の国家試験の勉強方法としては,ビデオ講座+教科書+問題集というのが主流ですよね. しかし,受験のように独学でも勉強したい!と思ったときに...

とのことである。著者の天沢ヒロというのが何者であるかは、知らぬ。 検索する限りではペンネームのようだが、こうした低俗な書物を本名で著す勇気はなかったのであろう。中途半端な人物である。

医学書院は、ここまで堕ちたか。


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