これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/10/31 近藤誠 (2)

近藤誠医師は、「癌は治療するべきではない」というような主張で、世間一般に名の知られた人物である。 基本的に、医療関係者からは嫌われているが、以前にも書いた通り、私は近藤氏を嫌いではない。 また近藤氏を批判する医師の方にも、かなり感情的で非科学的な叩き方がみられるため、その点については、私は近藤氏の側に立ちたい。

某医療関係情報サービスで、近藤批判の記事をみた。 こうした近藤批判の中で、時にみられる主張が「近藤理論にはエビデンスがない」というものであるが、これは的外れである。 これについては、私も過去に何度か書いているし、今さら繰り返そうとは思わない。

また、臨床医からは「迷惑だ」とか「無責任だ」とかいう批判もあるらしい。 しかし「無批判にガイドラインに従う」という無責任なマニュアル診療を行う医師が多い中で、 新しい医療のあり方を模索する近藤氏をことさらに叩くのは、あまり公正な態度ではないように思われる。単なるやっかみであろう。

確かに、近藤氏の理論は、間違っている。その点については、議論の余地はない。 しかし、癌に苦しむ一般大衆が、権威ある医師ではなく近藤氏のような、権威もない、いわば「胡散臭い医師」の言葉を信じるのは何故なのか。 「一般大衆は無知無学だから、正しい医学を理解できないのだ」などと考えている者は、医師たるにふさわしくない。

我々は、これまで患者に対し、自身の疾患や治療について理解してもらうという努力を怠ってきた。 かつては、癌を患者に告知しないまま治療するなどという意味不明な慣習があったらしいし、 また単なる延命治療なのに、根治できるかのように患者に誤解させたまま治療する例も多かったらしい。 昨今でも、治療内容について本当にしっかりとインフォームドコンセントを得ている例は、少ないのではないか。 同意書にサインをもらうことを「インフォームドコンセント」だと誤解しているのではないか。

患者の医者に対する不信感は、たぶん、あなた方が思っているよりも、ずっと強い。 その不信感を患者は口にできないでいるだけなのに、医者は、まるで自分達が信頼されているかのように錯覚しているのである。 そうした一般大衆に対し、我々は、理解を求める姿勢を欠いてきた。 それゆえに、近藤氏のような、主張は不合理であっても大衆の側に立っている医師に、患者が救いを求めるのではないか。 少なくともその意味においては、近藤氏は、時代の一歩先を行く、敬愛すべき医師である。


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