これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/10/18 男女差別

医師の中には、特に意識はしておらず、悪意もないのであろうが、男女差別に富んだ発言をする者がいる。 たとえば医学書院『標準整形外科学』第 12 版の 210 ページには、下肢切断のうち Syme 切断について 「機能的には優れているが, 外観が不良であるため女性には不適当である」としている。 これは「女性は機能よりも外観を気にするものである」というステレオタイプに基づいた記述であり、不当な差別にあたる。 なお、Syme 切断とは足関節よりも少し近位の部分、つまり「足首より少し上の部分」で切断する方法である。

男性であっても、外観の不良なることを理由にして Syme 切断を嫌がる例は稀ではあるまい。 また女性であっても、外観を特に気にせず Syme 切断で構わない、とする例も稀ではあるまい。 結局、こういう場合に「男性」だとか「女性」だとかいうことに言及するのがおかしいのであって、 単に「外観が不良であるため適応には慎重になるべきである」などとするのが正しい。 もしかすると、傾向としては女性の方が外観を気にする例が多いのかもしれないが、あくまで各々の患者の感性によって決めるべき問題であり、 医者が云々する問題ではない。 昔の医者は「治療方針は患者ではなく医者が決定するものだ」などと考えていたらしいが、現代においては不適切な考え方である。

これに関連して想起されるのは、四年生の頃の、頭頸部癌についての講義である。 その講師は、放射線化学療法が外科手術より優れていることを強調していた。 外科手術では、どうしても整容性が犠牲になるため特に「女性は嫌がる」と強調していたのである。 さらに彼は、それを裏付けたかったのであろう、前の方に座っていた女子学生に対し「あなたなら、外科手術と放射線化学療法のどちらを選ぶか」と問うたのである。

ところが彼女は芯の強い、たくましい人物であり、それまでの講師の発言を不愉快に思っていたようである。敢えて「手術で結構です」と言い放った。 私はニヤリとして内心「よく言った」とエールを送ったのであるが、講師は、彼女が何を言っているのか、よく理解できなかったようである。


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