これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/10/16 不正行為

少し前の話になるが、某医科大学病院で、精神保健指定医の資格を取得するに際し不正行為があったらしい。 m3.comの記事によれば、この資格を取得するには、 主治医などとして一定数の症例に関与しなければならないにもかかわらず、カンファレンスに参加した、という程度にしか関わっていない症例の報告書を提出して 不正に資格取得した者が 10 名以上いたらしい。

精神保健指定医というのは、精神保健福祉法に定められている資格であって、精神障害者の強制入院に関係する。 たとえば、二人以上の精神保健指定医が診察して「自身を傷つけまたは他人を害するおそれがある」と判断した場合には、 都道府県知事の権限により、本人や家族の同意がなくても強制的に入院させることができ、しかも期間の定めがない。これを措置入院という。 もちろん、これは患者の人権を著しく制限する入院形態であるから、その運用は慎重でなければならず、それを担う精神保健指定医の責任は重い。

さて、某医大における不正の件であるが、厚生労働省の見解としては、 組織的な不正ではなく、それぞれの医師が個別にインチキをした、ということになっているらしい。 真相はわからないが、しかし、少なくとも「自分が主治医になっていなくても、カンファレンスに参加した症例なら使って構わないよ」という空気ぐらいは、あっただろう。 また、そこで「いえ、自分が主治医になった症例以外は使いたくありません」などと言えば、 「なんだ、あの糞真面目野郎は」とか、「他の同僚がインチキをやっているとでも言いたいのか」などと批判されるのではないか。

問題は、我々が将来、そういう事態に巻き込まれた時に、どうするか、という問題である。 上級医の指示に従って、結局、資格を剥奪される道を選ぶのか。 それとも、職を失うリスクを背負ってでも、不正を拒むのか。

多くの学生は、既に、前者の道を選ぶことに決めているらしい。 先生方のおっしゃることに従順に、言われたこと、要求されたことを忠実に遂行するという学生生活を選んだということは、つまり、そういうことなのである。


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