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2015/10/08 後発医薬品

医薬品には、一般名と商品名がある。学術的な議論においては原則として一般名が用いられるが、病院などの臨床現場では商品名が用いられることも多い。 法令上は、医師が薬剤を処方する際には、一般名を用いても商品名を用いても良いことになっている。 一般名で処方された場合には、薬剤師の判断で、後発医薬品、いわゆるジェネリックの薬剤を使うこともできるし、 さらにいえば、後発医薬品の中で患者の好みなどに合わせて好きなものを渡すことができる。 その一方で、商品名で、かつ「変更不可」として処方した場合には、薬剤師の判断で同等の別の医薬品を渡すことはできない。 薬局の在庫管理などの事情から、日本医薬品卸売業連合会は、一般名での処方を求めているらしい。

これに対し医師の中には、変更不可として処方することを擁護する意見も強いようである。 中には、臨床現場における経験として、一般名としては同一の薬剤であっても、商品によって効き方が違うという例は存在する、と主張する者もいるらしい。 しかし、これは、製薬会社が不正を行っているのでなければ、まず間違いなくプラセボ効果であって、論ずるに値しない。

一方、m3.com の記事によれば、日本医師会常任理事の松本氏は 「薬局で別の後発医薬品に変更され、事故が起きた場合に、それを選んだ薬剤師や患者だけの責任ではなく、医師に責任が無いとは言えない」と述べたらしい。

詭弁である。 もし、薬局で変更された結果の事故について医師にも責任があるというのならば、当然、 医師の指示通りの薬剤を使用して生じた事故についても、医師に責任はあるだろう。 そうした場合に、本当に責任を取って何らかの適切な対応をしている医者が、いったい、どれだけ、いるのか。

特に高齢者の場合、一人の患者に対して 5 種類も 10 種類も、時には 20 種類もの薬剤が処方されていることは珍しくない。 これは、薬理学を学んだ者からすれば、恐ろしい状況である。 某医師は、そのような患者について「もはや、体の中で何が起こっているのか、誰にもわからない」と述べた。 そうした恐るべき処方を平然と行い、結果として生じる副作用には知らん顔して「私のせいではない、やむを得ない処方だったのだ」などという一方で、 「責任を取れないから」などと、薬局での商品変更を拒むというのか。

そうした薬剤流通の非効率のために薬局の経済的負担が増し、結果として患者の経済的負担が増えたとしても、病院や医師にとっては、痛くも痒くもない。 それを思えば、「不要なリスク」を減らすために、処方に縛りを入れて保身に走る気持ちは、理解できないでもない。 しかし、そういう医師が「人の命を救う」だの「患者の健康を守る」だのと口にするのは、到底、許容できない。 健康とは、単に身体が疾病に冒されていない状態を言うわけではない。 そんなことも理解していない医師もどきは、もう一度、学生に戻って公衆衛生学、社会医学を勉強し直す必要がある。

2015.10.09 語句修正

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