これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/10/06 高カリウム血症

腎臓の話が続く。 高カリウム血症とは、血漿カリウム濃度が高い状態をいう。低カリウム血症は、その逆である。 高カリウム血症では細胞が興奮しにくく、低カリウム血症では細胞が興奮しやすくなり、いずれも神経や筋の機能障害を来す。

問題は、それはなぜか、ということである。 MEDSi 『体液異常と腎臓の病態生理』第 3 版などでは、高カリウム血症について、Goldman-Hodgkin-Katz の式から「脱分極する」と説明し、 その結果としてナトリウムチャネルが不活化し、全体として興奮しにくくなる、としている。 脱分極でナトリウムチャネルが不活化する、というのは、いわゆる不活性化ゲートが閉じる、という話をしているのだろう。 しかし、よく考えると、この説明は、おかしい。

もともと、細胞膜にはカリウムチャネルが開口しており、カリウムの膜透過性は高い。 従って、高カリウム血症に至る過程で細胞内にカリウムが 流入するはずであるから、細胞内カリウム濃度は高くなりそうである。 Goldman-Hodgkin-Katz のモデルでいえば、細胞内外のカリウム濃度比は Na, K-ATPase 活性と膜透過性のみによって規定されるのであって、 細胞内や細胞外のカリウム濃度によって規定されるわけではない。 従って、高カリウム血症は、直接的には、脱分極を来さないはずなのである。 この点について、一部の教科書は「イオン濃度比によって膜電位が決まる」などと説明しているようだが、それは木をみているものの森をみていない。 「なぜイオン濃度に差が生じるのか」というところまで考えるべきである。

この問題に関連して、不思議な報告がある。(Journal of Applied Physiology, 82, 1136-1144 (1997).) この報告では、高カリウム血症の際に筋細胞において Na, K-ATPase の発現量が増加することを動物実験で示している。 その一方で、細胞外カリウム濃度の増加に比して、細胞内カリウム濃度の増加は小さいようである。 一体、どういうことなのか。Na, K-ATPase の発現量が増加すれば、むしろ、細胞内外のカリウム濃度比は大きくなりそうなものであるが、逆だ、というのである。

たぶん、カリウムチャネルが開口しているのであろう。 細胞内カリウム濃度が高まるのは、細胞機能の維持という観点からいえば具合が悪いので、高カリウム血症に伴ってカリウムの受動的な流出を促しているものと思われる。 しかし、それだけだと著しい脱分極が生じてしまうから、それを防ぐための機構として、Na, K-ATPase の活性化が生じているものと考えられる。 このようにして細胞内ホメオスタシスが保たれており、細胞内の機能を守るための代償が神経や筋の興奮性低下なのである。

2015.11.25 「過分極」を「脱分極」に訂正

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