これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/10/04 血中二酸化炭素の測定

The New England Journal of Medicineに連載されている読み物に Case Records of the Massachusetts General Hospital というものがある。 これについては、一年半ほど前に書いた。 当時の記事において、私は彼らの表現方法について攻撃を加えたが、一箇所、どうやら冤罪があったらしい。申し訳ない。 The Case Records では、臨床検査所見として `Carbon dioxide' という項目があり、私はこれを 「炭酸水素イオンと二酸化炭素を区別していない」として批判したが、これについては、私の方が間違っていた。 お詫び申し上げる。

日本においては、動脈血液ガス分析で、二酸化炭素関係の項目としては二酸化炭素分圧と炭酸水素イオン濃度、標準条件炭酸水素イオン濃度を測定するのが標準的である。 金原出版『臨床検査法提要』改訂第 34 版によれば、二酸化炭素分圧は「二酸化炭素電極」を用いて測定する。 これは、試料から遊離した二酸化炭素が「電極」中の溶液に溶け込んで電離することによる pH の変化を検出する、というものである。 私の理解が正しいならば、これは本当は分圧を測定しているのではなく、試料中の二酸化炭素濃度を測定して分圧に換算する、という手法である。 もちろん、人体においては分圧も濃度も同じようなものであるから、臨床的には両者を区別する必要はないだろう。

次に炭酸水素イオン濃度であるが、これは直接測定するのではなく、二酸化炭素分圧から Henderson-Hasselbalch の式を用いて計算する。 この式は平衡状態を仮定するものであるから、原理的には、たとえば炭酸脱水酵素の活性が著しく低下しているような状況では大きな誤差が生じ得る。 とはいえ、そういう状況は臨床的にはあまり存在しないので、気にしない学生が多いだろう。 ただし、工学部的な観点からすると、何を測定して何を計算しているのか、という違いを正しく認識していないと、 何かの際に事故の原因となり、危険であるように思われる。

さて、「標準条件炭酸水素イオン濃度」における「標準条件」とは、「動脈血二酸化炭素分圧が 40 mmHg」という意味である。 すなわち、炭酸水素イオン濃度に対する呼吸性因子の影響を補正して計算した値であって、いわゆる代謝性アシドーシスを評価するために算出される。

一方、米国では臨床検査として「総二酸化炭素」を測定するのが一般的であるらしい。 これは MEDSi 『体液異常と腎臓の病態生理』第 3 版によると、試料に強酸を加えることで生じる二酸化炭素を比色法で検出する、というものであるらしい。 この二酸化炭素の由来は、ほとんどが炭酸水素イオンであるが、溶存している二酸化炭素も含まれる。 従って、これは確かに Carbon dioxide としか言いようがないのであって、ハーバードは悪くない。 なお、この検査は「臨床検査法提要」には記載されていない。

2015.10.09 分圧と濃度について少し追記

戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional