これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/10/03 急性副腎不全に合併する電解質異常

2 月 13 日に副腎不全について書いた。 しかし、遺憾ながら、一部の論理は破綻していた。 たぶん、アレを読んで「コイツは何もわかっていないな」という感想を抱かれた方もいるであろうが、それは事実なので仕方ない。 とはいえ、いい加減な内容を放置して愛する母校、名古屋大学の名誉を傷つけるのも不本意であるから、補足する。

議題は「なぜ、グルココルチコイドからの急速離脱で低ナトリウム高カリウム血症を来すことがあるのか」という問題である。 過日の記事では、プレドニゾロンのミネラルコルチコイド活性に全ての責任を負わせて説明し、 「ミネラルコルチコイド活性が充分に低いステロイド剤であれば低ナトリウム高カリウム血症は来さないであろう」と予言した。 しかし、この予言は、あまり正しくなかった。

ミネラルコルチコイドは、部分的には、副腎皮質刺激ホルモン (AdrenoCorticoTropic Hormone; ACTH) 依存的に産生される。 具体的には、ステロイド合成系のうちの、いわゆるアルドステロン系のうちデオキシコルチコステロンやコルチコステロンまでは、 コルチゾール系と共通の酵素によって合成されるのである。(`Harrison's Principles of Internal Meidicine' 19th Ed. p. 2309) 従って、ミネラルコルチコイド活性の乏しい、たとえばデキサメタゾンを投与した場合であっても、下垂体を介するフィードバックの結果として、 ミネラルコルチコイドの産生量は低下する。 もちろん、この産生量低下は、通常は別のフィードバック系によって代償されるから、実際にはほとんど電解質異常を来さないであろう。 しかしフィードバック系の障害を合併していたり、あるいは別の薬剤を同時に投与されていたりする場合には、著明な低ナトリウム高カリウム血症を来す可能性がある。

さらに、冷静に考えれば、ステロイド投与中に低カリウム血症を来している必要はない。 どうして、あのようなことを書いたのか、私自身、理解できない。

まとめると、ステロイド離脱による急性副腎不全に伴う低ナトリウム高カリウム血症の機序には二つある。 一つは、そのステロイドのミネラルコルチコイド活性が急激に失われたことによるものであって、これは特に多量のステロイドが投与されていた場合の、離脱直後に生じる。 もう一つは、デオキシコルチコステロンの産生量低下が適切に代償されていないことによるものであって、ステロイド投与中から生じ、 離脱直後にも特に増悪しない。

ついでに補足すると、家族性アルドステロン症 I 型と呼ばれる疾患がある。 ステロイド合成系のうち、CYP11B1 と CYP11B2 がキメラ遺伝子を形成することによって ACTH 依存的にアルドステロンが産生される、というものである。 有名な疾患ではあるが、説明不足な教科書が少なくないように思われる。 私がみた限りでは、「ハリソン」や MEDSi 『体液異常と腎臓の病態生理』第 3 版の記述は、理解できるような説明になっていない。

東京化学同人『生化学辞典』第 4 版によると、デオキシコルチコステロンからアルドステロンを生成するまでの過程は、同一蛋白質の同一活性中心で連続して行われるらしい。 これを知っていないと、キメラ遺伝子の存在とアルドステロン産生の関係を理解できない。

2015.10.04 生化学辞典について追記

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