これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/02/05 フラジャイルと誤診

フジテレビ系で、テレビドラマ「フラジャイル」が放映されている。一昨日は第 4 回であったはずだが、私は、まだみていない。 いささか演出過剰には思われるが、医学的な無理が少なく、また原作では説明が省かれていた部分も、一般人にもわかるように適宜説明が加えられており、たいへん、よろしい。

第 2 回は救急科で「急性エタノール中毒」と、第 3 回は消化器内科で「クローン病」と、それぞれ誤診された症例について、 病理医の岸が検査上の矛盾点を指摘して正す、という話であった。 これらをみた同級生の中には、ちょっと臨床医に対して悪意があり過ぎだろう、というような意見もあったようである。 つまり、臨床医があまりにヘッポコであり、診断能力が低すぎる、というのである。 それは、その通りであって、まともな医者ならばやらないような誤診である。 しかし残念ながら、そういう誤診が世の中には少なくないと思われる。

大学病院などの大きな病院には、他院で「手に負えない」患者が紹介されて来ることが多い。 この「手に負えない」というのは、大別すると二通りあって、「重篤であり治療が難しい」という場合と、「よくわからない、診断できない」という場合がある。 そして遺憾なことに、両者の複合型とでもいうべき、「間違った診断により不適切な治療を受けた結果として重症化した」という場合がある。

四年生の時、我々は「PBL」として、実際の症例を参考にした架空の症例について議論する実習を行った。 この PBL で扱った症例の一つに「肺小細胞癌を原因とする ADH 不適切分泌症候群 (SIADH) により生じた低ナトリウム血症のために来した意識障害」を 近医で「アルツハイマー型認知症」と誤診され、トンチンカンな投薬を受けた高齢者が重症化して紹介されてきた、というものがあった。 肺癌を認知症と誤診するなど、常識的には考えられないのだが、なぜ、そういうことが起こったのか。 基本的な診断学を無視し、印象だけで早急に診断して治療する、という方法が、世間でまかり通っているものと推定される。 他にも、詳細は書かぬが、似たような誤診と不適切な治療を受けた事例を臨床実習中にみたことが何度かある。

そういった誤診が蔓延する背景には、紹介を受ける大病院側の態度にも問題があるだろう。 我々の PBL では、学生同士で議論した後、「まとめセッション」として専門の医師と質疑応答する機会が設けられていた。 その場で、私は 「もともとアルツハイマー病と誤診され、不適切な治療を受けていたものと考えられるが、 そういう事例をみた時、我々は患者に対し、どう説明するべきでしょうか」という質問を発した。 これに対し、その実習を担当した医師は、「そういうことは、臨床的には割とあります」という逃げ方をした。

理屈からいえば、患者に対しては「認知症という診断は、誤りであったと思われる」と告げるべきであろう。 さらに言えば、誤診にも、避けられない誤診と、医師の過失による誤診とがある。 この場合、ろくな診断根拠もなしにアルツハイマー病と決めつけて投薬したのであれば、重大な過失による誤診であって、損害を賠償すべきである。

しかし、なぜか医者は、他の医者を批判することを避けたがるようである。理由は知らぬ。 「人間、誰だって失敗するのだから、お互い、かばい合おうではないか」というような、高い協調性の賜物なのだろうか。 「医師は人の命を預かる崇高な仕事である」などという言葉は、一体、どこから出てくるのだろうか。


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