これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/02/01 北陸医大 (仮)

本日は、北陸医大 (仮) 大学院博士課程の入学試験であった。 私は、同大学の某教授の勧めにより、初期臨床研修と大学院生を並行する予定であるので、これを受験した。

初期臨床研修医には研修への専念義務が課されており、研修中のアルバイト等は禁止されている。 しかし大学院に通うことは、この専念義務に違反するとはみなさない、ということになっている。 従って、研修病院と大学が許すのであれば、初期研修と並行して大学院に通うことは可能である。 実際、福井大学などのように、初期研修二年目から大学院に通うコースを設けている大学病院は稀ではない。 また、たとえば岡山大学の場合、一年目から大学院と並行するコースを売りにしている。 我が北陸医大の場合は、特にこうしたコースを設定しているわけではないが、大学院との並行を禁止もしていない。 念のため問い合わせたところでも「研修に支障がない範囲であれば構わない」とのことであった。

大学院入試科目は、英語の筆記試験と、受入先教授による口頭試問であった。 英語といっても論文の簡単な読み書きだけであるし、口頭試問にいたっては、とうの昔に教授とは話がついているのだから、何を今さら、と思わないでもない。 ほとんど形だけの試験である。

英語の試験の題材となったのは、昨年 1 月にScience 誌に掲載された論文である。 名古屋に戻ってから気がついたのだが、これは、「多くの癌が『不運』によって発生する」というような文言で、 一般向けの新聞等でも取り挙げられた論文であった。 当時、私は「馬鹿らしい」と思って気にも止めなかったし、読んでもいなかった。「馬鹿らしい」と考えた理由については、長くなるので、ここでは書かないことにする。

どうやら、この論文は発表後に専門家からの猛攻撃を受けたらしい。 そういう論文を入学試験に出題するところに北陸医大の姿勢が表れており、たいへん、よろしい。 試験問題の一つに「この論文を論評せよ」というものがあったので、私は存分に批判を展開した。楽しい試験であった。

ところで、北陸医大を訪ねたついでに、図書館に立ち寄って以前に書いた蔵書の件を問い合わせてみた。 すると、本当に `Nelson Textbook of Pediatrics 20th Ed.' は所蔵していないという。 予算が厳しく、今年度は購入できないため、来年度に購入する予定であるらしい。 図書館のスタッフは「お恥ずかしい」と苦笑していた。

これは、由々しきことである。 北陸医大の学生は、小児科学について疑問を持った時、四年も昔に出版された前版の `Nelson' を開かねばならないのか。 国家の未来を担う人材の育成を使命とする国立大学において、かかる基本的な教科書を購入する予算すら図書館に与えられていないとは、どういうことなのか。 この国において、教育というものが軽んじられていることの証左である。 もちろん、これは北陸医大が責められるべきものではなく、そのような予算運用を大学に強いている文部科学省の責任である。

とはいえ、北陸医大に全く問題がないわけではない。 「これは我が大学の恥である。予算がないというのであれば、学生諸君のために、私が『Nelson』を図書館に寄贈しよう。」ぐらいのことを言う医師が、一人もいないのだろうか。 一体、何のために、医師は高給を受け取っているのだろうか。


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