これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/01/26 原発性胆汁性肝硬変と胆管癌

原発性胆汁性肝硬変と呼ばれる疾患がある。 `Robbins and Cotran Pathologic Basis of Disease 9th Ed.' によれば、これは 自己免疫的な機序による炎症のために、肝内胆管が破壊される疾患である。ただし、太い肝内胆管は、比較的、保存されるという。 なお、肝硬変は必発ではないため、あまり適切な病名ではない。 詳細な病因は不明であるが、抗ミトコンドリア抗体の出現は感度が 90-95 % であり、特異度も高いという。 無治療であれば、やがて肝不全や門脈圧亢進を来すが、ウルソデオキシコール酸は、この疾患の進行を抑制する効果があるという。 ただし、機序は、よくわからない。

さて、肝内胆管が炎症によって破壊される、というのであれば、肝内胆管癌を来す頻度が高かろう、と想像するのは、自然なことである。 しかし不思議なことに、この疾患は胆管癌を合併することが稀であるらしい。 一応、症例報告 (日本消化器外科学会雑誌 29, 1668-1672 (1996).) は存在する。 しかし、これは肝外胆管癌を併発したのであって、理屈から予想れる肝内胆管癌ではない。 また、この報告によれば、原発性胆汁性肝硬変の患者は他の悪性腫瘍を合併する頻度は多少高い一方で、胆管癌は稀なのだという。

一体、どう理解すれば良いのだろうか。

一つの可能性としては、炎症が激しいために、細胞が悪性化する前に繊維化してしまう、ということも考えられる。 いわば、肝内胆管は、はじめから抗癌化学療法を受けているような状態にある、とみるわけである。 とはいえ、この考えは、あまりに強引であろう。

原発性胆汁性肝硬変は、たぶん、胆汁鬱滞によって胆管が破壊される、というものではない。 そのような単純な話であるならば、抗ミトコンドリア抗体の存在を説明できないのである。 そもそも「抗ミトコンドリア抗体」という呼び方は、単に臨床検査上の所見によるものであって、その病理的な意義は、はっきりしない。 膠原病全般にいえることであるが、我々は、これらの疾患の本質が何であるのか、何も知らないのである。 そのために、グルココルチコイドや免疫抑制剤などを用いた対症療法に頼らざるを得ないのが現状である。


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