これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
皮膚科学において、PUVA 療法と呼ばれる治療法がある。 PUVA というのは、Psoralen-UltraViolet A の略である。 清水宏『あたらしい皮膚科学 第 2 版』によれば、これは psoralen という薬物を内服ないし外用後、長波紫外線 (Ultraviolet A) を照射するものである。 紫外線により psoralen が活性化し、細胞毒性を発揮するらしい。 なお、psoralen は、日本語では「ソラレン」と表記されるのが普通である。 「あたらしい皮膚科学」では詳細な機序について言及がないが、尋常性乾癬や尋常性白斑、菌状息肉症、掌蹠膿疱症に対して用いるとしている。 なお丸善出版『ハーバード大学講義テキスト 臨床薬理学 原書 3 版』では、この治療法には簡潔に触れているが、ソラレンの作用機序には言及していない。
臨床的には、ソラレン製剤として広く用いられているのは大正製薬の「オクソラレン」らしいが、添付文書上は「尋常性白斑治療薬」という扱いであり、 尋常性乾癬などは off-label 使用ということになるらしい。 添付文書では、作用機序はよくわからないが、メラノサイトが活性化してメラニン沈着を引き起こすようだ、としている。
基本的には、ソラレンは紫外線の細胞傷害作用を増強させるのだろうと考えられているらしい。 要するに DNA 損傷を引き起こすものであって、その意味ではシクロホスファミドやシスプラチンなどの薬剤と似たようなものである。 PUVA 療法の場合、紫外線を照射した部位でのみ毒性が発揮されるので、上述の皮膚疾患のような、限局性の病変に対して用いられるのである。
乾癬に対して PUVA 療法が用いられるらしい、という話を読んだ時、私は、首をかしげた。何をしたいのか、よくわからなかったのである。 乾癬というのは、原因はよくわからないのだが、たぶん自己免疫が関係する機序により、表皮のターンオーバーが異常に亢進する疾患ないし症候群である。 ターンオーバーというのは、細胞の入れ換わり、という意味であって、つまり乾癬では表皮細胞が異常に盛んに分裂している、という意味である。 ふつうに考えると、PUVA 療法による細胞傷害は、特に免疫系の細胞に選択的というわけではないだろう。 むしろ乾癬の場合、ターンオーバーの早さを考えると、表皮細胞の方が選択的に傷害を受けそうに思われる。 どうして、それで乾癬が改善するのだろうか。 以前にも書いたが、乾癬のような自己免疫の関係する疾患においてはプラセボ効果が著効する。 それを思えば、乾癬に対する PUVA 療法はプラセボ効果に過ぎないのではないか、ということも考えた。
そこで皮膚科学に造詣の深い友人の某氏に問うてみたところ、非選択的な細胞傷害により症状を抑えることで「なぜか治まる」のではないか、との回答を得た。 要するに、いわゆる膠原病などに対してグルココルチコイドで症状を抑えると、なぜか再発しなくなる人が稀ではない、という現象と同様だろう、というのである。 言われてみれば、確かに、そういうことなのであろう。
全く何の説明にもなっていないのだが、免疫について我々は未だ無知蒙昧なのであって、 生命の神秘としか言いようのない深淵で未知の機序により乾癬を抑えるのが、PUVA 療法なのである。 なぜ効くのか、ワケがわからない、という気持ち悪さを、我々は忘れてはなるまい。