これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
英語で rickets と呼ばれる症候群は、日本語では「くる病」と呼ばれる。 これは、小児における骨石灰化不全症のことであって、原因は多岐にわたるから、疾患ではなく症候群である。 従って「くる病」という表現は不適切であり、以後、私は英語で rickets と呼ぶか、あるいは「いわゆる、くる病」という表現を用いることにする。
Rickets の原因は主にビタミン D の作用不全であるが、カルシウムの摂取不足によるものも含めるのが一般的であるらしい。 そして臨床検査上の特徴としては、`Nelson Textbook of pediatrics 20th Ed.' によれば、原因によらず血中アルカリホスファターゼ活性の亢進がみられる。 その理由については昨年 9 月に書いたが、要するに、アルカリホスファターゼは骨芽細胞の活動性を反映しているのである。
9 月の時点では、私はカルシウム欠乏症は rickets に含めない、と思っていたので言及しなかったが、よく考えると、 カルシウム欠乏症によって血中アルカリホスファターゼ活性が亢進するのは不思議である。 血中カルシウム濃度が低いなら、骨芽細胞の活動を抑制するような機構が存在しても良さそうなものである。 しかし現実には、それが存在しないために、骨の石灰化不全を原因とする骨芽細胞活性化が優位になり、 血中アルカリホスファターゼ活性が亢進するものと考えられる。
なぜ、カルシウム欠乏症は骨芽細胞の活動性を抑制しないのか。 もし骨芽細胞の主たる任務が骨の形成や石灰化であるならば、副甲状腺ホルモンの分泌の亢進に対応して骨芽細胞の活動性を抑制する機構が存在すると考えた方が自然ではないか。
たぶん、骨芽細胞の活性を調節する機構、および骨芽細胞の未知の機能として、私の知らない何かが、あるのだろう。 カルシウム欠乏状態において、なお骨芽細胞を活性化させねばならない何らかの事情がある。