これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
麻布時代について書きたいことは他にもいろいろあるが、今回は、あと一つだけ紹介する。
麻布高校というのは、世間では、いわゆる進学校という扱いになっているようである。 一学年が 300 人程度で、だいたい、東京大学に進む者が 90 人程度である。これは、私が在籍していた頃から変わりがない。 他の卒業生は、高卒直後または一年程度の浪人を経て慶應大学などの、いわゆる有名所に進学し、京都大学などに入る者は少数派である。 順当に出世する者もいるが、大学中退などを経て尋常ならざる道を選ぶ者もいる。 彼らからすれば、私などは穏当な経歴であり、「あいつも、だいぶ、おとなしくなったな」などと思われているであろう。
以前、東京大学への進学者が 100 人を超えたことがある。 その時、「ちょっと、まずいかもしれないね」というような話が、教員の間で持ち上がったらしい。 というのも、「東大に行くための中学・高校」というような認識で麻布への入学を希望する者が増えては困る、というのである。 試験で点を取ることに、我々は、大した価値を見出していない。
さて、ここは「医学日記」であるから、医学の話を書こう。 名大医学科の学生には、「東大コンプレックス」のようなものがある者が少なくないようである。 平たくいえば、名大医学科というのは「東大理 III に届かなかった東海地方の高校生が行く所」というような位置付けであるらしい。 高学年になっても「東大医学部はスゴい」というような発言をする者が稀ではないが、東大の何がどうスゴいのか、よくわからない。
名大医学科の教育の最大の問題点は、こういう「試験で点を取ることは大事である」「東大はスゴい」というような偏見が、 高学年になってもなお矯正されていない点にある。 試験にしても、単純知識を問うものばかりで、独創性や個性を発揮する余地が乏しい出題ばかりがなされる。 そうした教育体制がよろしくない、という認識は少なからぬ学生が持っているようだが、それでも、周囲に歩調を合わせることをやめる者は少ない。 というのも「名大」ブランドは東海地方では最強なのだから、それにぶら下がっていれば、生涯安泰であると信じられているからである。 こうした名大の空気に嫌気がさし、卒業後は東京や他の地方に脱出する者も、少数ながら存在する。 結果として、不自由であっても物事を変える気のない者、勇気のない者だけが、名古屋に残るのである。
一歩、外に踏み出しては、どうか。