これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
しばらく休んでいたが、本日より復帰する。 休み明けなので、思い出話をしよう。 何回かに分けて連載し、最後に医学・医療の話につなげる。
現在のことは知らぬが、二十年ほど前、私が在籍していた頃の麻布中学・高校には、生徒会は存在しなかった。 1970 年から 1971 年にかけて、全国の大学と同様に我が麻布学園でも学園紛争が展開された。 これは、1970 年に「校長代行」に就任した山内一郎という人物が様々な不正を行っている、と生徒側が追及したものであり、 山内代行は 1971 年に辞任、1972 年に背任か何かの容疑で逮捕・起訴された。 この紛争の際には様々な逸話が生じた。 伝説となっているのは、山内代行の要請で敷地内に突入した警視庁機動隊を、一時は生徒側が学外へと排除した、というものである。 こうした紛争の中で、生徒会は「機能していない」として、解散された。 正確にいえば、正規の議決を経た解散ではなかったので、形式的には存続していたとみることもできるが、紛争終結後にも機能は回復しなかった。 このあたりについては、私の頃は毎年発行されていた「自治白書」という冊子に詳しく記載されているのだが、 どこにしまったか覚えていないので、記憶のみに頼って書いている。
生徒会は復活しなかったが、「予算委員会」「サークル連合」「選挙管理委員会」という自治組織は結成された。 サークル連合というのは、様々な部活動や同好会の集まりである。 あくまで生徒が自主的に組織したものであって、学校組織の一部ではない、ということになっている。 従って、このサークル連合に加盟しているかどうかは、「学校の公認サークル」かどうかを意味しない。 実際、新たな団体の加盟や脱退に際しても、学校側に通知はするが、関与は受けないのである。 この、いわゆる「サー連」に加盟することの最大の意義は、予算配分が受けられ、また空きがあれば部室を持つことができる、ということであった。
選挙管理委員会というのは、主に文化祭実行委員会や運動会実行委員会の「委員長」や「会計局長」を選出する選挙を実施する委員会である。 また、全校投票が行われる際には、これも管轄する。
予算委員会は、上述のサー連や文化祭、運動会などへの予算配分を担う組織である。 以前に言及した同級生の黒川君は、高校二年の時、この予算委員会の事務局長を務めていた。 当時、私はサー連事務局長であったから、何かと話す機会も多かったのである。 なお、高校三年の時には私はサー連事務局副局長であった。高校三年生が役職に就くのは異例であったが、それを禁じる規則はなかったのである。
さて、予算委員会が配分する資金は、主に「生徒活動費」として全校生徒から一律に徴収されたものである。 これは学校側から交付されるものではない。 あくまで生徒自身が生徒全体から徴収するものであり、その集金業務を学校側に委託しているに過ぎない、と、「予算委員会規約」に明記されている。 ただし、実際には毎年、生徒数の変動があるにもかかわらず、予算委員会に渡される生徒活動費は増減していない、など、 この「業務を委託しているに過ぎない」という建前は有名無実化しているきらいがあった。 また、生徒の間にも「学校からもらった金である」というような誤解が広まっていた。 さらに、どうやら生徒活動費は、会計上、学校法人麻布学園の収入に組み込まれているらしい、という話もあり、横領ではないか、という声もあった。 そこで上述の自治組織の役員らの間では、 この業務委託をやめて自分達で徴収してはどうか、というような議論もあったのだが、漏れなく徴収することの困難などを考えて、現状維持やむなし、との結論に至った。
さて、生徒活動費は、概ね年間 1000 万円程度であったように思う。生徒数は中学高校併せて 1800 人程度であるから、一人あたり 6000 円弱である。 このうち、サー連にわたるのが 800 万円程度であり、印刷費などサー連が使う経費を除き、ほとんどが加盟サークルに交付されていた。 交付額は、前年度の「適切な支出額」の 6 割程度が基本であったように思われる。 この「適切な支出額」というのは、「適切な領収書」がある支出のうち、活動目的に合致しない支出や個人のための支出を除外したものである。 たとえば飲食物は一律に認められないが、大会参加費は認められる。 また、領収印がない領収書は無効であり、宛名が不適切なものや、但書が曖昧なものは全て「不適支出」という扱いであった。 この宛名は重要で、たとえば個人名や「麻布中学」となっているものは不可であり、「麻布中学囲碁部」などでなければならなかった。
この不適支出を巡って、私が高校二年か三年の時に、大きな問題が起こった。 当時の印紙税法では、三万円以上の領収書には収入印紙を貼付せねばならない、ということになっていた。 なお、現在では、これは「五万円以上」に変更されている。 そこで予算査定においても、三万円以上であるにもかかわらず収入印紙が貼付されていない領収書は「不適」扱いであった。 しかし、あるサークルが数十万円の大規模な備品購入をしたのに、領収書に収入印紙が貼付されていなかったのである。 原則からいえば、これは不適支出であり、生徒活動費からの補助の対象外となる。 しかし額が額だけに、これをサークル所属生徒のみの負担とするのはどうか、という議論が起こったのである。
私は「適正な領収書がないのだから、認められない」という意見を述べたが、会計局では「それでは無情に過ぎる」という判断であったらしい。 そこで「収入印紙がないのは店側の脱税であり、違法な文書ではあるが、サークルから支出が行われたことを証明する能力を妨げるものではない」という論理が捻り出された。 違法な文書を容認することに道義的問題はあったが、証明能力という点については私も反論できなかった。 結局、サー連総会での議決を経て、特別に「適切な支出」として認められることになったのである。