これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/03/24 FDG-PET

私の知人から聞いた話である。 その人は 60 歳過ぎの男性で、既存症である慢性高血圧症に対し投薬治療を受けていた。 数年前から人間ドックで肺の結節影を指摘されていたが、特に大きくなる様子もないので、定期的な CT により経過観察が行われていた。 先日受けた CT では、結節の形に変化がみられたことから、肺癌ではないかと疑われた。 なお、ここ数年は頻回に勤務先が変わったために、これらの CT は、毎回、異なる医療機関で撮影された。 診断のために、FDG-PET の撮影を予定された。この PET の結果をみてから、肺生検を行うかどうか決めよう、と方針が決定された。 これと並行して、血液検査として、抗抗酸菌抗体や、クリプトコッカス抗原、結核感染を調べるインターフェロンγ遊離試験などを行うことにした。

恐るべきことに、これは、実話である。 しかも、全国的によく名の知られた、東京の某有名大学病院での話である。

非専門家のために、この診断過程の何がおかしいのか説明したいのだが、あいにく、何から何までおかしくて、とても説明しきれない。 一体、何がしたいのか、何を考えているのか、まったくわからない方針なのである。 最も大きな問題は FDG-PET であって、これは、癌の診断については感度も特異度も低い。従って、「ある病変が癌かどうか」を診断する役には立たず、癌については専ら「転移がありそうかどうか」を調べる目的に使うのが常識なのである。 従って「FDG-PET の結果をみて生検するかどうかを決める」ということは、考えにくい。 ひょっとすると、何か斬新で画期的な PET の利用法があるのかもしれないが、患者は説明を受けていないのだから、インフォームドコンセントを欠いた不当な診断法であることは間違いない。

問題は、この患者を担当した医師の肩書が「教授」であった、という点である。 教授の、かかるトンチンカンな診断法に対して、意見を述べる医師が、この大学病院には存在しないものとみえる。 教授様の言葉は絶対であり、それに疑問を呈することなど、許されない文化があるのだろう。

私のみたところでは、我が北陸医大には、こうした歪んだ文化は存在しない。 この垣根の低さこそが、地方大学の強みである。


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