これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/03/20 輸血拒否

この日記では、原則として特定の個人や団体に対する攻撃は行わないことにしているが、公共の福祉に関する事案に限っては、別である。

千葉県がんセンターのウェブサイトを眺めた。 1 月 6 日に書いた千葉県がんセンターにおける検体取り違え事故については続報がなく、一体、何ヶ月も、何を調査しているのかは、よくわからない。 それはそれとして、1 月 26 日に宗教上の理由による輸血拒否に対する当院の対応についてという記事が掲載されていた。

同院の指針によれば、同院は「相対的無輸血」の方針を採る、としている。 「相対的無輸血」という言葉について、この指針ではまわりくどい表現をしているが、要するに、輸血は絶対に嫌だというような患者は受け入れないから他院に行け、という意味である。 重要なのは、緊急時に、輸血以外に救命の手段がないと判断されれば、患者本人が輸血拒否している場合であっても、輸血による救命を行う、と明記している点である。

基本的なことであるが、患者には、医療を受ける義務も、救命を受ける義務もない。 当然、輸血による救命を拒む権利も、患者にはある。 それを思えば、同指針で「患者の自己決定権を尊重する」と書いている一方で輸血を強要していることは、矛盾しているように私には思われる。 何か後ろめたいものがあるから、わざわざ「自己決定権の尊重」などと当たり前の条文を先頭に置いたのだろう。

同院が、本人の意思を無視してまで輸血を強行する方針を明確化した理由は、明記されていないのでわからない。 しかし、私の想像では、これは訴訟対策であろう。 つまり、慣れない無輸血治療を試みて結果的に何か失敗して患者が死亡した場合に、遺族とモメるのが嫌なのだと思われる。 予め指針として「輸血を強行する」ということを表明した上であれば、本人の意思を無視して輸血した場合に仮に訴訟になっても、気が楽であろう。

実に優しい病院である。


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