これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/06/11 医師の「常識」

名大病院に限らないし、診療科にもよるが、医師は、製薬会社から薬剤の「情報提供」を受けることがある。 時に、それは通常の勤務が終わった後の 18 時頃から開始されるが、医師はだいたい忙しいし、疲れているから、10 分ぐらいで終わるのが普通である。 時間帯もちょうど空腹になる頃なので、製薬会社が弁当を供与することも稀ではない。 弁当といっても、詳しくは知らないが、もちろん、学生が日頃食べるような価格帯の弁当ではない。 これは、あくまで薬剤の「情報提供」である。断じて、接待ではない。

似たような薬剤を複数の会社が販売している時、どの薬剤を採用するかは、病院や医師の裁量である。 それを思えば、医師が製薬会社から接待を受けることは道義上の問題があるので、もちろん我々は、李下に冠を正すようなことは、していない。 情報提供は情報提供に過ぎないのであって、弁当によって薬剤の選択が左右されることはない。 ……などと思っている医者や学生は、稀ではない。 話にならない。アレは、誰がどうみても、接待である。疑われたくないのであれば、弁当は断わらなければならない。 実際、一部のまともな病院は、弁当などの物品の供与を業者から受けることを、院内規定で一律に禁止している。

診療録、いわゆるカルテは、高度にデリケートな情報を含んでいる。その秘密は、厳重に守られなければならず、第三者の目に触れるようなことがあってはならない。 従って、カルテのコピーを不必要に院外持ち出すことは許されないし、院内であっても、決して紛失しないよう、細心の注意を要する。 こんなことは中学生でもわかる理屈であるが、それをわかっていない大学生が少なくないようである。詳しく書くことは、ここでは控える。 また、医師の中にも、そうした感性の鈍い者がいるようである。

カルテといえば、カルテの開示請求は、患者が持つ当然の権利である。 自分のカルテなのだから、特に理由がなくても、興味本位で開示請求して構わない。 ところが、医師の中には「カルテの開示を請求する」という行為を「診療内容に疑義を抱いている」という意味に解釈する者が少なくないようである。 そういう医師は、患者がカルテの開示を請求した、と聞くと、不愉快に感じるらしい。ここには二つの問題がある。

一つは、そもそも開示請求されて不愉快に思うようなカルテを書いてはいけない、ということである。 逆に、医師の方から「カルテをお見せしましょうか。あなた自身のことなのですから、できれば、自分でも目を通しておいた方が良いと思いますよ。」ぐらいのことを 言った方が良いぐらいである。患者がカルテ開示を請求した、と聞けば「なんと治療に熱心な患者なのだろう」と喜ぶべきなのである。 当然、カルテに記載する際の言葉遣いにも注意が必要であり、不信感を抱かれるような表現は避けなければならない。

もう一つの問題は、患者に疑義を抱かれた際に、反省するのではなく不愉快に感じる、という精神構造である。 疑義を抱かれたならば、大抵の場合、それは医師の説明がまずかったか、そもそも診療内容がまずかったかの、いずれかである。 「私は適切な診療を行ったのに、疑われるとは、心外だ」などと思う医師がいるとすれば、その人は、インフォームド・コンセントというものを、わかっていない。


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