これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/05/16 標準精神医学 第 6 版

通読していない状態での仮レビューである。
追加レビューは5 月 26 日の記事を参照されよ。

今年 3 月に、医学書院『標準精神医学』第 6 版が出版された。 前版では編集者であった野村総一郎・樋口輝彦の両氏は「監修」となり、「編集」に新たに村井俊哉氏が加わった。 その結果として、筆頭編集者は、我らが名古屋大学の誇る尾崎紀夫教授になった。

以前にも書いたが、『標準精神医学』は言葉の定義にこだわった名著である。 精神医学においては「言葉が命」のような面があるために、当然といえば当然であるが、これだけ定義に注意を払っている医学書を、 (病理学書を別にすれば) 私は他に知らない。

『標準精神医学』は、医学書院「標準」シリーズの中でも異色である。 「標準」シリーズは、悪い意味で医学書院らしさに満ちており、辞書のような構成のものが多い。 すなわち、よくわからない医学用語や概念について適宜調べる用途には適しているのだが、最初のページから最後のページまで通読するには 退屈であり、眠たくなってくるのである。 ところが『標準精神医学』は、第 6 版序文に 「第 2 版から継続する『読み物としても面白い, 新しい知識を盛り込んだ教科書』という姿勢は今回も維持され」 とあるように、読んでいてワクワクする、楽しめる教科書である。 野村総一郎氏による「精神医学とは何か」という総説部分には、「精神医学にはロマンの香りがある」という節があり、 「高度先端的で即物的になりつつある医学のなかにあって, ロマンと物語性を感じさせるのが精神医学ともいえるのである.」で締めくくられている。 この文章を、防衛医科大学校という日本で最も堅苦しそうな医系大学 (厳密には大学校) の病院長が書いたというのだから、精神医学は、確かに、ロマンに満ちているのだろう。

精神医学は、主に器質的異常が明らかではない疾病を対象とする領域である。 従って、厳密にいえば、精神医学分野で対象とする疾病は「疾患」ではなく、症候群ないし障害であることが多い。 その結果、精神医学領域における疾病は定義が曖昧になりがちであり、それを補うために診断基準が厳格に整備されている。

DSM は、米国精神医学界が定めた診断基準であり、最新版は 2013 年に発行された DSM-5 である。 『標準精神医学』も、第 6 版からは DSM-5 に準拠している。 従って、教科書として読む場合、第 5 版ではなく、必ず、第 6 版を使用するべきである。

2015.05.26 追記

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