これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
ハリソン内科学の輪読会を行っている。 参加者は極めて少ないが、私の知る限りでは学年で五指に入る英才の某君が参加してくれているので、実に助かっている。
教科書を輪読する、という形式の勉強会には、賛否があるだろう。 否定的な意見として最も多いのは「教科書などは自分で読めば良く、輪読は時間の無駄だ」というものであろう。 それは一理あるのだが、私は、ハリソンのような重厚な教科書は、何人かで集まって読み進める価値があると思う。
輪読を推奨する理由の第一は、独りで読むと、どうしても読み落としが出る、ということである。 教科書というものは、ふつう、一から十まで詳しく書かれているということはなく、かなりの部分を省略して記載している。 その「行間」あるいは「文章の裏側」とでも言うべきものを読み取らなければ、キチンと勉強したことにはならない。 というより、本当に大事な内容は、表面的な文言ではなく、そうした「裏側」の部分に含まれていることが多いのではないか。 私の場合、『ハリソン内科学』第 4 版であれば、じっくり調べながら読むと時速 3 ページほどになるが、それでも、かなりの見落としが生じる。 輪読会で自分が担当した時には、見落している点を鋭く指摘する質問を受けると実に勉強になるし、そうでなくても、他人に説明することは自分の理解に役立つ。 また他人の説明を聴くと、自分が読んだ時には気にならなかった疑問が続々と湧いてくるので、これも勉強になる。
輪読会を進める第二の理由は、ペースメーカーとして機能する、ということである。 たとえば時速 3 ページで読み進めるとすれば、一日 10 ページを進むためには毎日 3 時間以上が必要になる。 しかし実際には、ハリソンだけにそれだけの時間を割くのは難しいかもしれない。 そうした時は、輪読会があれば、多少、読み方が浅くなっても、限られた時間の中で規定のページ数を進めざるを得なくなる。 読み方が浅くなることは良くないが、しかし、とにかく最後まで読み進めること自体も非常に重要ではあるから、ペースメーカーの存在はありがたい。
第三は、これは私のような意志薄弱な学生に限るのだが、輪読会でもなければ通読しない、という現実がある。 率直に言えば、ハリソンは読んでワクワクドキドキする類の教科書ではなく、むしろ眠たくなってくるような記述も多い。 必要に応じて辞書的に使うことはあるが、進んで通読したくなる書物ではない。 しかしハリソンは、福井氏が言うように、一度は読んでおく価値のある書物ではあるだろう。 従って、通読するための動機付けとして、輪読会は有効である。