これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
近頃、皮膚科医院に患者として通っている。診断名は自家感作性皮膚炎である。この疾患については、以前書いた。 治療としては、抗ヒスタミン薬であるエピナスチン 20 mg を一日一錠内服し、 グルココルチコイドであるプロピオン酸デキサメタゾン軟膏を患部に塗布している。 諸般の事情により通院間隔があいてしまったことなどにより、エピナスチンは、月曜日の夜からつい先程まで、丸四日、服用していなかった。 たぶん、これと関連し、昨晩から四肢を中心に蕁麻疹などの皮疹が生じ、鼻炎が増悪し、なかなかに苦しんだ。
「たぶん、これと関連し」と判断したことには、理由がある。 一般論としては、エピナスチンから急激に離脱したからといって、蕁麻疹を生じるかどうかは、よくわからない。 しかし、こうしたアレルギー性疾患については、プラセボ効果が著明に影響することが知られている。 すなわち、「エピナスチンを飲んでいない。これはイカン。」と思い続けることにより、広義のプラセボ効果が現れ、 実際には明らかな器質的要因がなくとも過敏性反応を来す、という現象は、医学的につじつまが合う。 なお、プラセボ効果については、以前の記事に書いた。
そこで、本当は今日の就寝前に飲もうと思っていたエピナスチン錠を、先程、服用した。 すると、足底の皮疹に伴う掻痒が、たちまち消失し、鼻腔の不快感が解消したのである。
もちろん、これを「エピナスチンが効いた」と考えるのは誤りである。 薬理学的に考えて、経口的に投与した錠剤が、そのような即効性を示すはずが、ないのである。 しかし私は、「きっと、このエピナスチンを飲めば、逆方向のプラセボ効果が生じ、たちまち掻痒が治まるはずである。」と念じながら、エピナスチンを飲んだ。 プラセボ効果は、患者がそれと知っていても、程度は減弱するが発揮される、ということを、私は知っていたからである。 そして実際に、プラセボ効果は、生じたのである。
このように、個人として行動する限りにおいては、プラセボ効果を活用することは有益である。 しかし医師として患者に対する場合には、そうではない。 学生の中には「プラセボ効果だろうが何だろうが、患者の病気が治るなら、それで良いではないか」ということを述べる者が少なくないが、そうではない。
まず第一に、少なくとも日本の場合、プラセボ効果に基づく診療は、健康保険上は認められていない。 自由診療であれば好きにすれば良いが、実際にはプラセボであるものに対し「効果がある」と称して保険金を引き出す行為は、 その資金を供出している国民全体に対する詐欺にあたる。
そして、より重要なこととして、医学的真相を探求する姿勢を放棄し、目先の診療に過度に集中することは、医道を卑しめ、何より自身を貶める行為である。 科学の徒である学生として、あるまじき姿である。