これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
名古屋大学時代に、同級生の某君と雑談している時に「濃厚赤血球、新鮮凍結血漿、およびアルブミンの輸血を行う基準は何か」というクイズを出された。 彼としては、輸血を行う目安となるヘモグロビン濃度の数値などを答えてみろ、という意図だったのだろうが、もちろん私は、そんな数値は記憶していない。 「貧血を迅速に補正しなければ生命の危険が生じる恐れがある場合には赤血球輸血を行う。 凝固因子の欠乏による重大な出血を来す恐れがあれば新鮮凍結血漿を輸血する。アルブミンの輸血が有効な状況というのは稀で、ちょっと、思い当たるものがない。」と答えた。
実際、アルブミン投与が有効と考えられる状況は稀であり、名古屋大学時代には、私はアルブミン投与を受けている患者をほとんどみた記憶がない。 ところが北陸医大 (仮) では、アルブミン投与が比較的高頻度に行われているようである。 学生や研修医と話しても、低アルブミン血症で浮腫があるから補正するのだ、というような発言を、しばしば耳にする。 もちろん、以前に書いたように、低アルブミン血症を原因とする浮腫は実際にはかなり稀であり、 浮腫に対してアルブミン投与が有効であるとする根拠は存在しない。 どうもこのあたり、遺憾ながら北陸医大の教育は、時代の最先端から少しばかり遅れているようである。
本日、北陸医大で学生や研修医などを対象としたセミナーで、アルブミンの話があった。 そこでは、救急医療における膠質液輸液の有効性は疑わしい、とか、アルブミンを安易に投与すべきではない、とかいう旨の話があった。 私はよく知らなかったのだが、そのセミナーで聴いた話によれば、1980 年代の日本ではアルブミンが濫用されていたが、その後、徐々に改善されてきているらしい。 要するに、そういう時代に育った医者は、深く考えずに安易にアルブミンを投与しがちなのであろう。 医学・医療においても、無思慮に経験に頼り、指導者の教えに従うのではなく、理論的な検討が重要であることを示す一例である。