これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/08/08 世界の狭小なること

私は工学部一年生の春、ある授業で「同じ組織に十年以上、留まるな」と教えられた。 同じ場所に留まると、思考の柔軟性が損なわれ、変化する勇気を失い、発展と成長が乏しくなるからである、というのが理由である。 いかにも、もっともらしい話である。 だから、というわけでもないのだが、結果的に私は京都大学 9 年、名古屋大学 4 年と、その教えに従う形で所属を変えてきた。 北陸医大 (仮) にも、10 年以上、留まるつもりはない。

医学部に入る時、私は「教育内容など、どこの大学でも大差あるまい」などと思っていた。 医学部教育というのは医師免許を取得するための通過儀礼のようなものなのだから、どんな大学であっても、 自分がシッカリしていれば、キチンと勉強することはできるはずだ、などと甘いことを考えていたのである。 しかし北陸医大に来て、その認識を改めた。 正直に言えば、現状、名古屋大学医学部と北陸医大医学部では、学生に対する教育の質に雲泥の差がある。 北陸医大の学部教育は、要するに医師国家試験対策が主眼なのであって、医学教育ではない。 もし私が、あの時、名古屋大学ではなく北陸医大を選んでいたならば、たぶん、私は卒業する前に潰されていたであろう。

問題は教育だけではない。診療の内容についても、時代錯誤ではないかと思われるような慣行が少なからず存在するが、詳細を書くことは控える。 この、私でさえ指摘できない、という事実から、北陸医大の体質を推察していただきたい。

私は医学界の外からやってきて、また医学部生としても、名古屋大学という比較的マシな大学で育ったから、北陸医大の異常な現状を、異常と認識することができる。 だからこそ、今後、この異常な大学を正常化し、日本一の医学教育機関へと押し上げることができると考えている。 しかし、ずっと北陸医大で育ってきた学生には、これが異常であると理解することは困難であろう。 だいたい、彼らの視野は県内か、せいぜい北陸地方ぐらいまでしか届いていないようにみえる。 日本全体、あるいは世界に向ける視線を、持っていないのではないか。

名古屋大学時代、ある教授から「名古屋大学は、旧帝大と地方大学の悪い所を兼ね備えている」などという自虐を聴いたことがある。 その時は、なかなか的を射た指摘であると私は思ったのだが、北陸医大に来て考えが変わった。 この教授は、本当の地方大学の悲哀を知らない、と言わざるを得ない。

北陸医大の卒業生は、まず日本と世界を知るために、県外に出るべきである。


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