これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/07/24 クレアチニンクリアランス

12 月 29 日の記事も参照されたい。

過日、北陸医大 (仮) の方言として「胸写」と「実測」について書いた。 もう一つ、「クレアチニンクリアランス」についても閉口したので、書いておこう。

生理学用語で、ある物質の「クリアランス」とは、「その物質が体内から消失する単位時間あたりの量」を「その物質の血中濃度」で除した値のことをいう。 血中濃度で除する理由は「体内から消失する量は、大抵、血中濃度に比例する」という経験則である。 クレアチニンというのは、筋細胞などに存在するクレアチンの非酵素的代謝産物であって、専ら腎臓から尿中に排泄されることで体内から消失すると考えられている。 厳密にいえば、クレアチニンは糸球体で瀘過される以外にも尿細管から尿中にも分泌されるのだが、 「尿細管では再吸収も分泌もされない」と、おおまかに近似してしまうことも多い。 この近似の下では、上述の経験則は概ね成立し、しかもクレアチニンのクリアランスは糸球体瀘過量 (Glomerular Filtration Rate; GFR) に一致する。 臨床的にクレアチニンクリアランスを測定ないし推定するのは、この糸球体瀘過量を知りたいからである。

定義からわかるように、クレアチニンクリアランスを計算するためには、血中クレアチニン濃度、尿中クレアチニン濃度、および尿量を測定する必要がある。 この尿量の測定は、意外と手間がかかるので、臨床的にはあまり頻回には行われない。 そこで、血中クレアチニン濃度と年齢、体重や性別などからクレアチニンクリアランスを大雑把に推定する計算式が提案された。 このようにして計算された値を eGFR (estimated glomerular filtration rate) と呼ぶ。

ここまでは、まともに生理学を勉強した学生にとっては常識である。 さらに、eGFR は、多くの、あまり正確ではない近似に基づいて計算されるのだから、本当の GFR からは大きく乖離することも稀ではない、ということも容易に想像できよう。 問題は、その eGFR のことを「クレアチニンクリアランス」と呼ぶ医師が、北陸医大では稀ではないことである。

なぜ、こんなデタラメな言葉遣いがまかり通っているのかは、知らぬ。 本当にクレアチニンや腎臓のことを知っている医師であれば、口が裂けても、eGFR のことを「クレアチニンクリアランス」などとは呼ばないであろう。 医師としての見識が疑われる。


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