これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/07/16 意識障害

昨日の記事を書いていて、思い出した話がある。 私が学生時代に、中部地方の某病院の救急部を見学していた際に目撃した事例である。

精神科通院中で自傷行為を繰り返している患者が、意識障害のため救急搬送されてきた。 診療にあたった研修医や看護師は、その自傷行為の傷跡をみて、診療行為としての妥当な範囲を逸脱した 「うわぁ、怖い」とか「なんで、こんなことするのか、理解できない」などという言葉を発した。 もちろん彼らも、意識のある患者に対しては、そのような発言は慎しむであろう。 つまり患者には聞こえていないと思って、油断していたわけである。 ところが、実は患者は言葉を発しないだけであって、周囲の状況をよく理解していたようである。 治療に反応して状態が回復するや否や、研修医や看護師らの発言に対して猛抗議を開始した。 その後どうなったかは、詳しくは書かぬ。 なお、後でカルテを閲覧したところ、事実に反する内容が記載されていた。 患者は医療不信を募らせたようであるが、証拠は残っていないのだから、法的闘争も困難である。

この事例には、カルテの不実記載の他にも二つの問題がある。 第一には、そもそも「うわぁ、怖い」とか「理解できない」とかいう気持ちを抱くこと自体が不適切である。精神疾患に対する基本的な理解を欠如していると言わざるを得ない。 第二に、仮に患者に聞こえていないとしても、不謹慎な言動は慎しまねばならない。社会常識からいって、あたりまえのことである。医学云々以前の問題である。 ところが、上述の事例のあった病院に限らず、全身麻酔下の手術室では、かなり不謹慎な言動が展開されることが多いようである。 医師という連中は、遺憾ながら世間の期待に反して、倫理観を欠いていることが多いのである。

上述のものとは別の某病院では、手術室に「全身麻酔下であったとしても、患者は覚醒しているものとみなして、礼節を保って接すべし」というような掲示がなされていた。 他の病院に比べれば、問題意識が保たれているという意味でマシであるが、そうした掲示をせねばならないほど、医師の倫理観が乱れているのである。


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