これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/07/04 アセトアミノフェン

私は、医者の中では基礎医学寄りの、より学究的な部類の人間であるとは思うのだが、 それでも、臨床現場にいると、ついつい医学的精神を忘れそうになることがある。 この日記には、医学を忘れた凡庸な医師になってしまうことを恐れ、自らを戒める意味も込められている。

アセトアミノフェンの話である。 この薬は、NSAID 様の解熱鎮痛作用を持つが、抗炎症作用を欠くことから、NSAID には含めないのが普通である。 臨床的には、主に肝臓で代謝されるために腎障害のある患者にも使いやすい一方、肝毒性には注意を要する、という話が有名である。

NSAID の作用は、シクロオキシゲナーゼ阻害による末梢性の抗炎症作用と、中枢性のプロスタグランジン産生抑制による解熱鎮痛作用である。 アセトアミノフェンの場合は、シクロオキシゲナーゼ阻害作用が乏しく、臨床的には中枢性の作用のみが有効であると考えられている。 私が臨床にウツツを抜かしているからといって、そのくらいのことは、いくら何でも、忘れない。

が、研修医・学生合同勉強会のための資料を作成している際、「アセトアミノフェンの作用機序は、いかなるものであるか」が頭に浮かばなくて困った。 私は、つい先日もアセトアミノフェンを患者に処方した。それなのに、その薬の作用機序を言えないとは、一体、どういうことか。これでは藪医者との謗りを免れ得ぬ。 私は狼狽して、D. E. Golan et al., Principles of Pharmacology: The Pathophysiologic Basis of Drug Therapy, 4th Ed. (2017). を開いた。 余談であるが、米国等では、法令上の都合なのだと思うのだが、書籍の出版年としては実際の出版年の翌年が示されることが多いようである。 この教科書も、著作権表示は 2017 年になっているが、実際の出版年は 2016 年である。

さて、同書の 301 ページには、次のように記されていた。

Acetaminophen (paracetamol) preferentially reduces central prostaglandin synthesis by an uncertain mechanism; as a result, the drug produces analgesia and antipyresis but has little anti-inflammatory efficacy.

要するに、機序不明、とのことである。 次からは、アセトアミノフェンを処方する際には、機序不明、と唱えながらカルテに入力することにしよう。


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