これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
メッケル憩室、と呼ばれる腸管の先天的形態異常がある。 これは、回腸遠位部にある憩室、つまり行き止まりの脇道のようなでっぱりであり、 R. M. Kliegman et al., Nelson Textbook of Pediatrics, 20th Ed., (2016). によれば、だいたい一般人口の 2 % ぐらいにみられるという。 医学関係者であれば、大抵、名前ぐらいは知っているであろうが、その詳しい特徴となると、意外と、知られていないようである。
`Nelson' によれば、メッケル憩室には「2 の法則」があるという。 つまり、この憩室は人口の 2 % 程度にみられ、だいたい回盲弁から 2 フィート程度吻側の位置にあり、長さは 2 インチ程度であり、 2 種類 (胃と膵臓) の異所性組織が高頻度にみられ、症状は 2 歳までに生じることが多く、女性は男性より 2 倍、頻度が高い。 ただし、こうした特徴については異論もあり、S. E. Mills et al., Histology for Pathologists, 4th Ed., (2012). によれば、 この憩室は回盲部から 20 cm 程度の距離に多く、50 % から 70 % 程度の例では異所性組織がみられないという。
メッケル憩室についてのレビューとしては、Clinical Anatomy, 24, 416-422 (2011). が読みやすい。 これによれば、メッケル憩室の大半は無症候性であるが、4-6 % 程度が発症するという。 症状としては腹痛が典型的であり、その原因は腸閉塞や消化管出血、腸管穿孔などである。 このうち、消化管出血については、機械的に損傷されて生じる場合もあるだろうが、特徴的なのは異所性組織によるものである。 すなわち、なぜかメッケル憩室には胃の組織が生じることが稀ではなく、そこから分泌される胃液などによって周囲の正常腸管が傷害を受けるのである。 これを検出する方法として、99mTc 標識した過テクネチウム酸塩を用いたシンチグラフィが行われることがある。 というのも、詳しい機序はよくわからないのだが、過テクネチウム酸塩は胃粘膜に集積するようなので、これが腸管内に集積した場合、 そこにメッケル憩室が存在することを強く示唆するからである。 この検査は、詳しい事情はよくわからないのだが、小児では感度も特異度も高い一方、大人では感度がやや低く、特異度は著しく低くなるらしい。 もちろん、このシンチグラフィが有効なのは、異所性胃粘膜組織を伴うメッケル憩室の場合に限られる。 上述のレビューによれば、症状を伴うメッケル憩室においても、異所性胃粘膜組織を伴うのは 60-65 % 程度であるというから、 残り 35 % については、別の方法で診断しなければならない。
以上のことからわかるように、メッケル憩室の有無を検索する目的でシンチグラフィを行う、という論理は正しくない。 シンチグラフィが有効なのは、消化管出血があると考えられる小児において、出血の原因として異所性胃粘膜を伴うメッケル憩室を疑っている場合に限られるのである。