これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/09/25 臨床教育

この記事には、塩沢俊一教授について、不正確な記載が含まれている。2018 年 4 月 4 日の記事を参照されたい。

昔の臨床実地教育は酷いもので、「指導医がやるのを、みて、盗め」という方式であったと聞く。 様々な臨床手技を、一度は指導医がやってみせて、一度は指導医が研修医と一緒にやって、あとは研修医一人でやらせる、というのである。 もちろん、それでキチンと技能を修得できるわけがないのだが、そこは気合と努力と根性で乗りきれ、ということらしい。 さすがに現代では、こういうやり方は非効率、非科学的であり、教育としての質が低いだけでなく、患者の利益を損なうと考えられている。 それでも、古い体質を引きずった一部の病院、診療科では、そういう「教育」方法が残っていると聞くから、恐ろしいことである。 私が患者であれば、そういう病院の診療は受けたくない。

以前、日本には教育をできる医者が少ないということを書いた。 もちろん、北海道大学はかつて解剖学の名著『解剖学講義』を著した伊藤隆に教授の席を与え、『あたらしい皮膚科学』の清水宏を擁している。 また、九州大学は、『膠原病学』を著した塩沢俊一や、 そして日本語の微生物学の教科書としては最高峰の名著である『戸田新細菌学』で知られる戸田忠雄といった、優れた教育者を多数、輩出してきた。 また、山口大学には、個人的にはあまり好きではないが『医学生・研修医のための神経内科学』の神田隆がいる。 しかし、こうした教育者たちは、専ら基礎医学や内科学の分野から生まれたのであって、外科領域における優れた教育者の噂を、私は知らなかった。

過日、電気メスの使い方についてのセミナーが、北陸医大 (仮) で行われた。 セミナーの内容は基礎的なものを中心に充実しており、説明の仕方も巧く、 また講義として一般の若手医師や医科学生を飽きさせない程度に理論的・物理学的内容にまで言及されており、 たいへん、素晴らしいセミナーであった。 講師は、北海道大学の某医師である。 私は、また北大か、と、思った。 どうやら北海道大学では、優れた教育者を引きつけ、培う土壌が、基礎や内科だけでなく外科領域にも及んでいるらしい。

私は、自分も北海道に行こうとか、九州大学に移りたいとか、そういうことを言っているわけではない。 優れた人物というのは、必ずしもブランド力のある東京大学だの京都大学だのに行くわけではない、ということを言っているのだ。 米国の例をみても、間質性肺炎の神様とでもいうべき Anna-Luise Katzenstein は、ハーバードやジョンズ・ホプキンスなどではなく、 State University of New York Upstate Medical University という、はっきりいえばマイナーな無名大学の教授である。 こうした例から鑑みるに、我が北陸医大は、全国から広く人材を集める度量、そこから新しいものを生みだそうとする創意工夫という点において、 日本一を充分に狙うことのできる立場にあるといえよう。

2016.11.22 神田隆氏の所属について誤った記載を修正しました。たいへん失礼いたしました。

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