これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/12/12 透視

放射線を用いた透視下の診療行為における不適切な被曝については、二年ほど前に書いた。 私は名大 6 年生の時、放射線科で 7 週間の実習を受けたのだが、このとき、ある教員は、透視の画面に自分の手が映ることは「死にたくなるほど恥ずかしい」と述べた。 ある時などは「おい、手が映っているぞ」という怒号が飛んでいるのをみたこともある。 その一方で、名大にせよ北陸医大 (仮) にせよ、そうした認識を持っておらず、「多少の被曝はやむを得ない」と考える医師は稀ではないようである。 たぶん、どこの病院でも、放射線科以外の人々は放射線というものをよく知らず、防護についても認識の甘い者が少なくないのではないか。 もし、本当に「多少の被曝はやむを得ない」という論理で、手が透視画面に映ることを前提として診療するならば、個人線量計を手に装着しなければならない。 これは、日本国の法令で決められているのであって、個々の医師や病院の裁量で省略できるものではない。

放射線について無知な者が、浅慮にも防護を怠って診療に携わり、結果として不適切な被曝をして自身の健康を損ねるだけならば、自業自得と、いえなくもない。 しかし大学病院の場合、指導医は学生に対して、自分の身を守るための適切な方法を教授すべき立場にある。 それならば、不適切な被曝をする現場を故意に学生にみせることは、道義上、許されない。 さらに、もし研修医等に対して、不適切な被曝を前提とした手技を実行するよう求めているならば、それは暴行罪または傷害罪にあたる。

不幸なことに、少なからぬ学生や研修医は放射線医学をろくに勉強せず、放射線のことを知らない医師による指導のみを受けているらしい。 そのために、学生や研修医は、透視下で、いかに危険で不適切な行為が行われているのか理解できず、「透視とは、そういうものだ」と誤解するようである。 遺憾ながら、私は一介の研修医に過ぎぬから、不適切な透視手技をみた際に、居合わせた学生にコッソリと「あれは、ダメだよ」と耳打ちするぐらいのことしか、できない。

放射線物理学の元専門家としての立場から申し上げるが、放射線というものは、ろくな知識も持たない素人が扱えるものではない。


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