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2016/12/7 病気がみえない

「病気がみえる」という、一部の医学科生に人気の参考書シリーズがある。 これは、様々な疾患について、その特徴などを簡明なイラストで解説した絵本であって、視覚的に「わかりやすい」ということで評判らしい。 もちろん私は、そうした低俗な書物は所有していないし、あまりジックリと眺めたこともないのだが、他人が開いているのをみせてもらったことはある。 私が名古屋大学の学生であった頃、この「病気がみえる」シリーズを「低俗だ」と批判する教授も一部にはいたが、「割と、よく書けている」などと評価する教員も少なくなかった。

いつであったか忘れたが、北陸医大 (仮) の某教員と話している際に、この「病気がみえる」に話題が及んだことがあった。 その教員は「まぁ、病気はみえないけどね」と茶化した。私は「ですよね、フフフ」と笑った。我々の間では、これで、通じたのである。 つまり、「病気がみえる」シリーズなどは、疾患の本質には全く迫っておらず、そんなものを読んだところで、何も理解したことにはならない、という意味である。

また、あるとき私は重厚な教科書を医師控え室に持ち込み、たまたま居合わせた学生にみせびらかしていた。 すると、某内科医は「そういう本の方が、本当はわかりやすいんだよね。『イヤーノート』などは、読んでもサッパリわからないが、点だけは取れる」などと言った。 「イヤーノート」というのは、よく知らないが、医師国家試験に出題されやすい内容をコンパクトにまとめた参考書であるらしい。 そういう参考書は記述が浅薄なので、何も考えずに丸暗記して試験で点を取るだけなら役立つかもしれないが、結局、何もわかったことにならないのである。

たぶん、名古屋大学時代には、私が学生であったから、センセイ方も遠慮して「病気がみえる」「イヤーノート」などを否定するようなことを言わなかったのであろう。 今は研修医であるから、北陸医大の指導医は、遠慮なく、そうした俗書を批判する言葉を口にしているものと思われる。 だから、上述のような私の経験は、北陸医大の方が名古屋大学よりも意識が高い、という証拠にはならない。

しかし私としては、天下の名古屋大学において、「病気がみえる」「イヤーノート」などを肯定するような言葉は、聞きたくなかった。


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