これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/12/1 空気を読むこと

同期研修医のある人から「あなたでも空気を読むということがあるのですか」などと言われたことがある。 どうやら、私が空気を読まずに突撃する類の人間であるかのように、みえていたらしい。 もちろん、その人の私に対する認識は誤りである。 私は、非常によく空気を読む。ただし、空気を読んだ上で、敢えて、突撃する。

過日、研修の一貫として、献血ルームでの検診を行った。 私の任務は、献血をしようという人に対し問診などを行い、献血を行うに適する健康状態であるかどうかを確認する、というものであった。 献血を行ったことのある人ならわかると思うが、検診といっても、問診票の記載事項を確認し、 口頭で二、三の質問をし、血圧を測って、明らかな問題がある人だけ献血をお断りする、という簡素なものである。

もちろん、献血者の数はそれほど多くないし、一人の検診に要する時間も短いのだから、献血ルームに詰めている時間の大半は仕事がなく、暇であった。 手持ち無沙汰なので、私は採血装置の挙動を見学したり、通路脇に立って異状がないか監視したり、また献血を終えて帰る人に対して礼を述べる、などという「奇行」を始めた。 とりわけ、この「礼を述べる」というのが、献血ルームのスタッフに好評であったらしい。 よく知らないのだが、検診医がこういうことをするのは稀である、とのことである。

常識的に考えれば、血液製剤を投与する立場にある我々が、患者に代わって、供血者に対し礼を述べるのは、当然のことである。 が、それをする医師は、多くないという。 特に仕事もないのに、ただ椅子に座って、献血者を尻目にスマホをいじって時間をつぶす医者の姿を、そこにいる他の人々は、どういう目でみているのだろうか。

他人の目、ということでいえば、大学内でも同じことである。 たとえば研修医などを対象とするセミナーや、製薬会社の MR (Medical Representative) による薬剤説明会、 またエラい先生方が参加する臨床病理検討会 (ClinicoPathological Conference; CPC) で、挙手してベラベラと質問する研修医の存在を、 他の人々は、どのようにみているか。

私の行動は、同期の研修医や学生時代の同級生には、奇行として映っているだろう。 一部の者からは、頭のネジが二、三本、飛んでいる、などと思われているに違いない。 しかし、他の立場の人は、たぶん、私を、かなり違う目でみている。 そういう意味で私は、ものすごく空気を読んでいるし、悪くいえば、強烈にゴマスリをしている。 考え方によっては、実にイヤラシイ人間である、といえよう。

空気を読んでいないのは、むしろ、あなた方のほうである。


戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional