これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/11/28 R-CHOP 療法の開発 (2)

そもそも CHOP は、単剤で有効な抗癌剤を組み合わせただけのレジメンであって、抗癌剤同士の相互作用は、あまり考慮されていない。 従って、これがリンパ腫に対する至適なレジメンであるとは、到底、思われない。 そこで血液学者達は、CHOP よりも優れたレジメンを確立するべく模索を続けた。 それにもかかわらず、CHOP は、リンパ腫に対する標準的なレジメンとして 30 年間、君臨し続けた。 つまり、CHOP に代わる新規レジメンを開発する試みは、悉く、失敗したのである。

CHOP に対する血液学者の敗北を示す報告として有名なのは Fisher RI et al., N. Engl. J. Med. 328, 1002-1006 (1993). である。 これは、非ホジキンリンパ腫に対する「第 3 世代レジメン」として開発された m-BACOD, ProMACE-CytaBOM, MACOP-B の 3 つのレジメンについて、 いずれも CHOP に対する優越性を示すことができなかった。 それどころか、m-BACOD と MACOP-B については、重大な有害事象が CHOP よりも有意に多いことが示されてしまったのである。

さて、rituximab は抗 CD20 抗体であるから、CD20 陽性の B 細胞リンパ腫に対して有効であろう、ということは容易に想像される。 実際、瀘胞性リンパ腫に対しては、多剤併用化学療法よりも毒性の低い rituximab 単剤療法が選択される場合もある。 ただし rituximab 単剤療法では、たとえ完全寛解 (Complete Remission; CR) に至ったとしても再発が必至であるため、 これは根治を目指さない緩和医療に位置づけられる (Ardeshna KM et al., Lancet Oncol. 15, 424-435 (2014).)。 再発が必至なのは、CD20 はリンパ腫細胞の生存に必須の蛋白質ではないために、腫瘍の一部には必ず CD20 陰性の細胞が存在するからであろう。

根治はできないとしても rituximab は B 細胞リンパ腫に対して有効である、という事実をふまえれば、 CHOP に rituximab を併用する、という発想は自然である。 そうして R-CHOP が誕生したのは 2002 年であり (Coiffier BC et al., N. Engl. J. Med. 346, 235-242 (2002).)、 さらに 2006 年には R-CHOP が長期予後についても優秀なレジメンであることが確認された (Feugier P et al., J. Clin. Oncol. 23, 4117-4126 (2005).)。

さて、CHOP を改良したレジメンとしては、R-CHOP の他に EPOCH と BR が挙げられる。 これらのレジメンについては、また後日、書くことにしよう。


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