これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/12/29 クレアチニンクリアランス

12 月 31 日の記事も参照されたい。

最近になって知ったのだが、Cockcroft-Gault の式によって計算される値を「クレアチニンクリアランス」と呼ぶのは、 北陸医大 (仮) に限らず、臨床医療業界全般で行われている慣行であるらしい。 全く、意味のわからない風習である。

いうまでもなく、クレアチニンクリアランスとは、腎からのクレアチニンの排泄量を、単位体積の血清に含まれるクレアチニン量で除した値である。 その根底には、血清クレアチニン濃度とクレアチニン排泄量は比例する、という仮定がある。 もちろん、クレアチニンは尿細管からも分泌されるので、この仮定は正しくないのだが、大雑把な近似としては、尿細管からの分泌を無視するのが普通である。 この近似の下では、クレアチニンクリアランスは糸球体瀘過量とだいたい等しい、ということになる。 クレアチニンクリアランスは、臨床的に測定可能な量ではあるが、実務上は、その測定は、なかなか大変である。 そこで、クレアチニンクリアランスを推定するための計算式が、数多く提案された。 Cockcroft と Gault は、血清クレアチニン濃度と年齢および体重からクリアランスを推定する計算式を提案し、これは、現在でも広く用いられている。 ここまでは、医学科の学生にとっては常識である。

さて、Cockcroft と Gault の元の論文 (Nephron 16, 31-41 (1976).) を読んだことのある学生や研修医は、はたして、どれだけ存在するだろうか。 もし、この論文の Fig. 2 をみたならば、この式によるクレアチニンクリアランスの推定は、実に精度が悪いことがわかるであろう。 このことを知っていれば、この式による計算値を「クレアチニンクリアランスの推定値」などとは、恐ろしくて、とても言えるはずがない。

理由は知らないが、臨床的には、血清クレアチニン濃度のみから計算した糸球体瀘過量の推定値を eGFR (estimated gromerular filtration rate) と呼び、 Cockcroft-Gault の式から計算した値は「クレアチニンクリアランス」と表現することが多いらしい。 冷静に考えれば、これは、全く非合理なことである。 年齢や体重を考慮することで、もしかすると、多少は推定の精度がマシになるかもしれないが、粗い推定であることには変わりがない。 Cockcroft-Gault の式は、あくまで eGFR の計算方法の一つに過ぎないのであって、クレアチニンクリアランスとは、呼べない。


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