これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/11/18 おかしな図書館

以前、北陸医大 (仮) の某医師から「この大学の図書館は (良い意味で) ちょっとおかしい」という話をきいたことがある。 というのも、開架書庫に『臨床検査法提要』第 4 版が置かれている、というのである。

臨床検査医学マニア以外の人のために、多少の補足説明が必要だろう。 『臨床検査法提要』というのは、臨床検査医学のハンドブックであって、この分野の聖典のようなものである。 近年では金原出版から刊行されており、最新版は第 34 版、大きさは 22 cm 大で、1970 ページである。 初版が刊行されたのは昭和 16 年であり、北陸医大に所蔵されている第 4 版は昭和 22 年刊行で、21 cm 大、314 ページである。 そのような、実用的な意義は皆無である骨董品、貴重書が、学生向けの教科書と並んで開架書庫に並べられているのが北陸医大の図書館なのである。

私は、過日、図書館に寄った際に上述の某医師の言葉を思い出して、この第 4 版を探し出し、ペラペラとめくってみた。 この書物を眺めていて思い出したのが祖父江逸郎氏の話である。 名古屋大学名誉教授である祖父江氏は、著書『軍医が見た戦艦大和』の中で、軍医学校時代に臨床検査法提要の「エッセンスだけやった」と述懐している。 この祖父江氏の記述を読んだ当時五年生の私は「あのマニアックな書物を、エッセンスだけとはいえ、学生時代に学ぶとは、祖父江氏もなかなかの人物だな」と感心した。

しかし、よくよく考えてみれば、祖父江氏が読んだのは「提要」の初版か、せいぜい第 2 版ぐらいであろうから、ページ数も 300 に満たない、薄い本であったはずである。 1 ページあたりの分量も、かなり少ない。情報量としては、最新版の「提要」の 10 分の 1 以下であろう。 その程度の本を「エッセンスしかやらなかった」のだと考えれば、祖父江氏も、それほど大した学生ではなかった、ということになる。


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