これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/11/15 ある指導医のこと

今月は、北陸医大 (仮) の某内科系診療科で研修を受けている。 この診療科では、毎朝、カンファレンスを行っているのだが、教授が臨席するのは週に 1 回だけである。 先週、つまり私にとっては初回の教授臨席カンファレンスにおいて、私は新規入院患者について報告した。 既に入院してから 3 日ほどが経過していたから、ある程度の診断はついていたし、治療もすでに行われていた。 しかし教授は、我々の診断が厳密さを欠いている点が不満であったらしく、診断内容に対し厳しい批判を加えた。 厳しい、というよりも、有無を言わさぬ決めつけのような口調であった、という方が正しいかもしれぬ。 ただし、教授の知識には正しくない点もあったようで、批判の内容は、部分的には的外れであった。

私は、実に謙虚でオクユカしい研修医であるから、決めつけるような教授の発言に対し、反論を述べて良いものかどうか、躊躇した。 そこでチラリと指導医の方をみると、その若い指導医は憤然と「何をおっしゃっているのか、理解できませんな」というような調子で、教授に対する反論を開始した。

私は、反省した。アレを、指導医に言わせてはならなかった。 教授の考えが間違っていることは、私にもわかっていた。 それならば、それを指摘することは、本来、発表を担当した私自身の任務である。 まずは私が反論して、それに対して教授が「研修医風情が、生意気を言うな」などと憤慨してから、指導医に出馬を請うべきであった。

後で知ったことであるが、その指導医は、実は私と同年齢であるらしい。 医学の分野に限れば、彼の方が数年、経験豊富ということになるが、学問全般のことでいえば、私が彼よりも経験や才覚において劣るということはない。 さらに、彼も学究派であるから、15 年後には、我々は病理学教授と内科学教授として、北陸医大の中軸を担う立場にある。 そのことを思えば、やはり、彼一人を突撃させるわけにはいかぬ。 私は、孤軍奮闘して学問の道を進むことの苦しさ、寂しさを知っているのである。

次のカンファレンスでは、私が先陣をきることにしよう。


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