これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/12/27 教科書や論文の読み方

昨日の記事で、麻酔科学の聖典である `Miller' の軽率な記載について指摘した。 読者の中には、これについて「枝葉末節に拘泥した、陰湿な批判だ」などと思った人もいるかもしれぬ。 その感想は誤りである、ということを、ここに指摘しておこう。

純粋な論理体系を重んじる数学とは異なり、物理学や化学、生物学といった自然科学、そして工学や医学といった応用科学においては「絶対に正しい事実」は存在しない。 いかに実験や理論を積み重ねようとも、ある事象が、完全に疑いの余地なく正しいことを証明することは、不可能だからである。 それどころか、特に生物学や医学の場合、広く「正しい」と信じられている事象でさえ、かなり曖昧な根拠しか持たないことも稀ではない。 教科書に「広く知られた事実である」と記載されている内容でさえ、よく調べてみれば、ろくな根拠が存在しないこともある。 たとえば「抗二本鎖 DNA 抗体は、SLE に特異的である」という説である。 これは、学生向けの平易な参考書にすら記載されている有名な事実であるが、実際には何の根拠もない風説であることは昨年、指摘した

その「事実」が、どこまで信用できるのか、あるいは、どこから信用できないのか、ということを理解しておかなければ、その知識を正しく運用することは、できぬ。

2016.12.28 余字修正

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