これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/10/25 我が不明を恥じた話

見識の高い人と話をしていると、ときどき、アッと、我が不明を恥じ入るようなことがある。 特に印象深かったのは五年生の時、病理学の某教授に対し、形態学に基づく病理診断の限界について問うたときのことである。 これについては 2 年ほど前に書いた

過日、北陸医大の某医師 (仮) と話していて、久しぶりに強烈な衝撃を受けた。 ふつう、臨床的には、抗凝固薬であるワルファリンの効果モニタリングにはプロトロンビン時間 (Prothrombin Time; PT) を、 ヘパリンの効果モニタリングには活性化部分トロンボプラスチン時間 (Activated Partial Thromboplastin Time; APTT) を、それぞれ用いる。 私は、学生時代から、「そんなものでモニタリングして、本当に大丈夫なのかなぁ」ぐらいの疑念は抱いていたが、 「そんなものは駄目だ。話にならん。」というような批判までは、行っていなかった。 批判しなかったということは、つまり、PT や APTT でモニタリングするという手法に対し、暗に同意していたことになる。 ところが、上述の某医師が教えてくれたところによると、金沢大学血液内科の人々は PT や APTT によるモニタリングは不適切だとして批判しているという。

言われてみれば、当然のことなのである。 我々がワルファリンやヘパリンによって血液凝固因子活性を抑制するのは、あくまで望ましくない血栓形成を予防するための手段なのであって、 凝固因子の抑制自体が目的なのではない。 それならば、凝固因子活性そのものを反映する PT や APTT ではなく、血栓形成の具合を反映するフィブリン/フィブリノゲン分解産物 (Fibrin/Fibrinogen Degeneration Products; FDP) や D-ダイマー、トロンビン・アンチトロンビン複合体 (Thrombin-AntiThrombin complex; TAT) などを指標に用いるべきである、という理屈らしい。

モニタリングは PT や APTT で行う、などという先入観を捨ててみれば、金沢大学の主張は、至極、あたりまえである。 私は、世の一般的な学生や研修医などに比べれば常識にとらわれない類の人間であると自負していたが、どうやら血液学については、無思慮なシロウトに過ぎなかったようである。 深く、恥じ、反省した。


戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional