これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
10 月 21 日付の北日本新聞に「敗血症検査法 製品化へ」と題する記事が掲載されていた。一部を抜粋する。
細菌やウイルスなどの感染症により全身の返照や多臓器不全が起きる「敗血症」について、富山大学大学院が進めてきた検査法が (中略) 国の助成を受け、同検査法の製品化と先進医療化を目指す。
感染症の原因菌を検出する段階で遺伝子の塩基配列を読まずに菌を特定することができる。 従来の血液検査では特定に 2 〜 3 日かかるものが、3 時間程度で可能になるため、早期に抗菌薬を選択して効果的な治療ができるという。
私は、偶然、この研究について以前に聞いたことがあったから、この記事が述べている内容を理解することはできた。 しかし、この記事の記載は医学的に誤っており、記者が内容をよく理解しないままに書いたことが明白である。
まず第一に、これは敗血症に対する検査ではなく、菌血症に対する検査である。 要するに、血液検体内に存在する細菌の菌種を同定するための検査なのであって、それが感染症の原因菌なのかどうか、などは、もちろんわからない。 従って「敗血症検査」という表現も「感染症の原因菌を検出する」という表現も、いずれも不適切である。
また、知らない人にとっては「遺伝子の塩基配列を読まずに」という記載も、脈絡のない突飛なものにみえるだろう。 記事では明記されていないのだが、これは検体中の細菌 DNA を検出することで菌種を同定する、という手法である。 類似の手法としては、Polymerase Chain Reaction (PCR) を用いる方法や、DNA 配列を同定する方法が考えられる。 しかし、これらは費用などの面から、臨床的に多用するには向かない。 それをふまえて、安価に DNA の塩基配列を調べる手法として開発されたのが、この手法なのである。 私は、その内容もある程度は知っているのだが、どこまでプレスリリースされたのかは把握していないので、 富山大学の広報へのリンクを記載するに留めよう。
要するに、記者の水準が低いのである。 医療系の記事を書くなら、最低限、基本的な細胞生物学や生化学ぐらいは学んでおくべきであろう。 また、研究者の側も、素人相手の説明の仕方が、あまりよろしくないのではないかと思われる。相手の水準に合わせた説明をするべきである。