これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/10/17 レボフロキサシン (2)

10 月 20 日の記事も参照されたい。

レボフロキサシンは、テトラサイクリン系抗菌薬などと同様にヒト細胞内への移行性に優れるため、サルモネラ属菌などの細胞内寄生菌に対しても有効である、とされる。 添付文書上の「適応症」にも、腸チフスやパラチフスといった、サルモネラ属菌感染症も挙げられている。 しかし、レボフロキサシンの組織中への移行性については報告があるものの、細胞内への移行性を実験的に検証することは困難である。 そのため、添付文書やインタビューフォームでも、「臨床的に有効であった」という内容しか述べられていない。 もちろん、臨床試験などというものは、多くのバイアスを含んでいるから、そのまま信用するわけにはいかない。 結局のところ、細胞内寄生菌に対してレボフロキサシンが本当に有効なのかどうか、仮に有効だとして適切な投与量はどれだけなのか、ということは、よくわからないのである。

さて、レボフロキサシンを巡っては、次のような問題がある。 たとえば妊婦が腸チフスを患った場合、治療薬としてレボフロキサシンを用いることは、妥当であろうか。

レボフロキサシン製剤の添付文書をみると、冒頭に「【禁忌】」として、妊婦に投与してはならぬ旨が記載されている。 その理由としては「妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。」とある。 もしレボフロキサシンが使えないとなれば、腸チフスに対する抗菌薬としては、セフトリアキソンが候補に挙がるだろう。 そこでセフトリアキソンの添付文書をみると、 「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。 [妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]」とあり、禁忌とまでは記載されていない。 いずれも「安全性が確立していない」というだけのことであれば、「添付文書に禁忌と記載されている」というだけの理由で レボフロキサシンを避けてセフトリアキソンを選ぶことは合理的でないように思われる。 さらに、レボフロキサシン製剤のインタビューフォームをみると、ラットにおける動物実験でサンプル数も 4 と少ないものの、 どうやらレボフロキサシンの経胎盤的な胎児への移行は少なそうなデータが示されている。

もちろん、添付文書に「禁忌」と明記されている以上、それを投与して患者に有害事象が生じた場合には、投与した医師の立場が悪くなる恐れはある。 しかし私が調べた限りでは、「DNA 合成阻害薬である」という機序から来る気持ち悪さを別にすれば、 レボフロキサシンの妊婦への投与を特別に忌避すべき事情はないように思われる。 この点について、某製薬会社の MR 氏に問い合わせを行った。回答待ちである。


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