これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/10/13 京都と瀬戸内海

今週、私は遅い夏季休暇を取得し、九州の某大学病院病理診断科の見学に来ている。仮に、九州医科大学と呼ぶことにしよう。 北陸から九州は、なかなか、遠い。 私は特急サンダーバードで京都まで行き、そこから普通列車で神戸へ、そこから夜行フェリーで門司に上陸した。本当は、途中の京都で一泊したかったのだが、連休のせいか、手頃な値段のホテルがみつからなかったので、京都は日帰り観光で済ませた。

京都での滞在時間は 5 時間足らずである。その限られた時間の中で私が向かったのは、もちろん、京都大学である。 地下鉄で市役所前まで移動した後、かつての私の住居前を通って大学まで徒歩 30 分程度である。鴨川沿いの風景も、一部は変わりつつも、概ねは 15 年前から変わらない。

別段、京都大学に用事があったわけではない。時計台ショップで買い物をし、大学の附属博物館を視察し、ついでに医学部キャンパスを偵察して、帰途についた。 京都大学の良い所は、何かの役に立つとか役に立たないとか関係なしに、面白いから学問するのだ、という空気が、今なお残っている点である。 これは、名古屋大学や北陸医大 (仮) が、いつの間にか忘れ去ってしまったものである。 長いこと名古屋や北陸で過ごしていると、この京都大学的精神をつい忘れそうになるので、私は、自らを戒める目的で京都大学の空気を吸いに来たのである。

誤解のないよう明記しておくが、私は、何も、北陸医大の我々よりも京都大学の人々の方が優れている、などと言っているわけではない。 医学部キャンパスは閑散としていたが、大学院生らしき学生風の一人の男をみかけた。 彼は死んだ魚のような眼をしてトボトボと歩いており、医学に対する情熱の炎を内に秘めているようには、到底、みえなかった。 彼一人をもって京都大学代表とするわけにはいくまいが、つまり、器が立派であっても、中身も相応に優れているとは限らないのである。

さて、私は神戸から門司まで、阪九フェリーの 2 等客室 (個室) で移動した。運賃は 9000 円足らずと格安であったが、まぁ、値段相応のサービスであった。 船内のレストランも、とりわけ上等というわけではない。 あくまで格安の交通手段と考えるべきであって、ヘルシンキ - ストックホルム間を結ぶ Silja Line のような豪華クルージングとは異なる。

神戸を出港した後は、右舷方向に兵庫の夜景が続いていた。さらに船が明石海峡大橋の下を通過する際には、少なからぬ乗客が甲板に上がり歓声を挙げていた。確かに、きらびやかな風景であった。 しかし、実は趣があるのは左舷方向であった。ちょうど、沈みつつある上弦の月が左舷前方の高度 35 度の空に輝き、水面は月光を反映し、彼方には淡路の街の灯がわずかにみえた。 この情景を眺める乗客の少なかったことは、実に、もったいない。


戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional