これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/10/12 「医者変わり者説」

「名大医学部学友時報」の 2016 年 9 月号に、愛知県の某病院長が「医者変わり者説」について寄稿されていた。 医者に対する他職種からの苦情は多い、という。 周囲から「先生」などと呼ばれてチヤホヤされるうちに、何かを勘違いして周囲との調和を損ねる医者が少なくないのであろう。 そして、今後、現在のような医者に対する過剰な優遇は失なわれていくであろうし、諸君は常識ある社会人として成長して欲しい、というような内容の記事である。 私としては、基本的には同意できる内容であったが、いくつか不満もある。

天下の名門、名古屋大学の出身者であれば、これからの日本を牽引する立場にある。 従って、もちろん周囲との調和は重要であるものの、 ある程度は常識から逸脱した「変わり者」であっても構わない、むしろ、そうあるべきだと、私は思う。 日本を牽引する、という観点からすれば、名古屋大学の弱点の一つは、常識的であり過ぎること、変わり者が少なすぎることではないか。 しかし、この病院長は「変わり者」という語を「社会不適合者」というような意味で使っており、その点には同意できない。

この病院長は、学生時代の医科学生は、特に社会性が乏しいというわけではないように思われる、というようなことも書いている。 しかし名古屋大学にせよ北陸医大 (仮) にせよ、そもそも学生時代に、既に歪んだエリート意識を抱えているように、私には思われる。 多くの医科学生は、医師を特に崇高な仕事であると考え、その医師になる将来が約束されている「医学科生」という立場に、ある種の誇りを持っているように思われる。 しかし、はたして他学部の人々は、そういう目で医学科生をみているだろうか。

少なくとも京都大学や名古屋大学などの場合、工学部や理学部などに進む人々の多くは、医学部に行くだけの得点能力がなかったから工学部や理学部を選んだわけではない。 医学部に魅力を感じていない、換言すれば、医師という職業に魅力を感じていないから、医学部を選ばなかったのである。 「医師の、一体、何が良いのか。安定した高収入と社会的ステータスだけではないか。」 「科学の発展と人類の未来のために貢献する我々の方が、偉い。」 ぐらいのことを思っている者も少なくないであろう。 要するに彼らは、医学部などという安易な安定に逃げた我々を、低くみていると考えて良い。

もちろん、医学部と工学部のどちらがエラいか、などというのは、客観的に決められるものではない。 しかし、我々は、我々が思っている以上に、世間から蔑まれていると認識しておくべきであろう。

このあたりの意識の違いのために、医科学生は、学生時代から既に、一般社会から乖離しているように思われる。


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