これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/10/09 製薬会社からの贈物

過日、一年次の研修医宛に、某製薬会社からの贈物が届けられた。 添えられていた手紙の文言は、次のようなものである。一部は伏せ字にする。

○○病院
○○先生侍史

平素より大変お世話になっております。○○株式会社 ○○と申します。 お手紙にて失礼申し上げます。
○○株式会社では、研修医 1 年目の先生方に「レジデントノート」をご提供させて頂いております。 日常の業務の中でお役立て戴けましたら幸いです。 また、○○株式会社では多くの製品を取り扱っております。何かお困りの点や、ご不明な点がございましたら遠慮なく下記の連絡先にお問い合わせ頂けましたら幸いです。
今後も何かとお世話になりますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

研修医宛に挨拶状の類を送るのは、良いと思う。 我々としては薬剤の不明な点について質問しやすくなるし、彼らとしても、結果的に営業効果を上げられるとなれば、間接的に経済的利得につながるだろう。 もちろん、患者の利益にもなるし、誰も損をしない。 ただ、「レジデントノート」は余計である。

レジデントノートというのは、羊土社が出版している雑誌であって、研修医受けする内容を集めたマニュアル本の類である。 羊土社というのは、重厚な専門書ではなくアンチョコ本を得意とする出版社であって、私は、この会社が好きではない。 ○○株式会社から贈られたのは、このレジデントノートの 2014 年 5 月号に掲載された特集を抜き出し、この○○株式会社の広告をくっつけて作った「別冊」である。 この「特集」というのは、救急外来診療についてのマニュアル的な内容である。 理由は知らぬが、初期研修といえば救急、というような風潮が一部にあるので、それを意識して、こうした内容にしたのであろう。 このレジデントノート別冊を少しだけ眺めたところ、掲載されていた記事の一つに、「成書で学ぶ習慣をつけるべきだ」というようなことが書かれていた。 たぶん、著者は、このような低俗な雑誌に寄稿することに対し、科学的良心の呵責を感じているのだろう。

さて、医療、特に現在の健康保険制度の公共性を考えれば、医師と製薬会社は、適切な距離を保たねばならない。 特段の事情もないのに、製薬会社から医師に一方的に贈物をするなどというのは、社会通念上、健全な関係とはいえまい。 このあたりについて、多くの医療関係者の感性は、かなり世間から乖離しているように思われる。


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