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医学日記 (2016 年度 4)

2017/03/30 膠原病と間質性肺炎

膠原病と呼ばれる疾患群は、本態不明であるが、たぶん、何らかの自己免疫的な機序と血管病変が関係して、全身の様々な臓器に炎症性障害を来すものである。 曖昧なボンヤリした表現で恐縮であるが、現代医学においては、その程度しか理解されていないのだから、仕方ない。 また、理由はわからないが、膠原病の部分病変として、しばしば間質性肺炎が生じる。 特に、現在のところ非特異性間質性肺炎と分類される病変は、実は全例が自己免疫性肺炎ないし膠原病の肺病変なのではないか、とする意見すらある (Respiratory Medicine 99, 234-240 (2005).)。

以前、某所で、関節リウマチ性間質性肺炎と診断された症例についての報告をみたことがある。 慢性的な肺病変を指摘されていた 60 歳台の男性患者が、肩などの関節痛を主訴に受診した病院で、関節リウマチと診断された。 血清学的にも、リウマトイド因子強陽性、抗 CCP 抗体強陽性、抗核抗体陰性など、関節リウマチとして矛盾しない所見であった。 その後、多数の関節の腫脹や圧痛が生じたが、X 線画像上は、明らかな関節の変形はみられなかった。 その一方で、CT 上で通常型間質性肺炎 (Usual Interstitial Pneumoniae) 様の所見を呈する肺病変は急速に増悪し、呼吸不全で死亡したのである。

膠原病は、間質性肺炎が初発病変であることも稀ではなく、その場合、いわゆる特発性間質性肺炎との鑑別が困難になることは有名である。 従って、上述の経過は、関節リウマチ性間質性肺炎として明らかな矛盾はない。 米国リウマチ学会が唱えている関節リウマチの分類基準にも合致する症例であった。

しかし、それでも、これを関節リウマチと診断するのは正しくないように思われる。 「関節リウマチ」を一つの疾患単位とみるならば、それは、あくまで関節を病変の主座とする膠原病の一型、でなければならない。 上述の症例は、関節病変は比較的軽度であり、むしろ肺病変が急速に進行したのだから、いわゆる関節リウマチと同一疾患とみるのが適切であるとは思われない。 血清学的所見から推測すれば、関節リウマチと類似の細胞学的異常から発した病変には違いあるまいが、あくまで肺を主座とする病変に軽度の関節病変が伴ったものであり、 「関節リウマチ様急速進行性間質性肺炎」とでも呼ぶのが適切であろう。

この未知の病態を一つの疾患概念として確立するためには、病理解剖において、この病変の特徴、特に関節リウマチとの異同について明らかにしなければならない。 おおよそ、次の三点が重要であると考えられる。 1) 全身の炎症反応の程度に比して、関節病変、具体的には滑膜病変の乏しいこと; 2) 肺病変については関節リウマチ性間質性肺炎との間に差異がないこと; 3) 炎症が肺を主座として生じる細胞学的、あるいは組織学的な背景を詳らかにすること。

現在は「関節リウマチ」として一括りにされている疾患群を、本質的に異なる二群に分類しなおすことで、 新たな治療戦略、あるいは早期発見・発症予防の戦略の確立につながることが期待される。 というより、そうした疾患の本態を理解することなしに、適切な治療など、不可能である。

臨床医でもなく、基礎病理学者でもなく、臨床病理学者が存在することの最大の意義が、そこにある。


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