これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/03/13 癒着構造

3 月 2 日号の The New England Journal of Medicine には、面白い記事が多かった。 とりわけ目を引いたのは `Conflicts of Interest for Patient-Advocacy Organizations' (N. Engl. J. Med. 376, 880-885 (2017).) である。 Patient-Advocacy Organizations というのは、平たくいえば「患者支援団体」であって、ある疾患の患者のための情報提供・情報交換などを行う団体のことである。

この報告によれば、こうした団体のうち少なからずが、製薬会社などの医療関連企業から経済的支援を受け、あるいは団体の代表者などを企業の者が務めている。 特に、企業から寄付を受けていること自体は公にしていても、その額や使途は明らかにしていないなど、企業と団体との結びつきは不明瞭にされていることが多いようである。 そうした企業と Patient-Advocacy Organization との関係は、必ずしも不適切であるとはいえないが、 そうした団体が何らかの提言を発したり、いわゆるロビー活動を行っている場合には、問題が生じる。

日本においても、医師と製薬会社等は、親密な交友関係にあることが多い。 一部の病院等は企業などからの物品受け取りを一律に禁止しているが、名古屋大学や北陸医大 (仮) をはじめとした多くの病院では、 製薬会社負担で高価な弁当が供与される「薬剤説明会」などが行われることが多い。 また、企業ロゴの入ったボールペンやメモ帳などを供与されることも多い。 なお、以前は薬剤の商品名などが入ったボールペン等が供与されていたが、これは、昨年、業界の取り決めで自粛することになり、企業ロゴに変更されたと聞いたことがある。

さて、巷には、良い医者の見分け方、などの情報が満ち溢れている。 その中でも、製薬会社のロゴが入ったボールペンやメモ帳などを使っている医者は信用するな、というのは有名な話である。 何らかの癒着構造がある証左である、というわけである。 ところが、同期研修医と話してみると、こういう話が世間でなされているという事実を知らぬ者が稀ではないらしく、驚いた。

彼らの言い分としては、捨てるのも勿体ないし、第一、弁当やボールペンをもらったからといって、それで投薬などの判断が左右されることはない、というのである。 が、そんな主張を、世間は認めない。李下に冠を正し、瓜田に履を入れ、それで患者から信用されるはずがない。

もちろん私は、そうしたボールペンの類は、全て廃棄している。勿体ないが、使うわけには、いかぬ。 では弁当はどうしているかというと、これは食べている。 「二枚舌」などとの批判もあろうが、研修医としては、これが最も現実的な線であろう。 弁当も全て拒否してしまえば気分は良いが、研修医の立場でそれを行えば、指導医に迷惑がかかるからである。

また、製薬会社主催で行われる「勉強会」の類では、タクシーチケットや、新幹線のチケットなどが支給されることが多い。 少なからぬ医師は「招かれて行くのだから、交通費を先方が負担するのは当然だ」などと思っているかもしれないが、これは世間知らずであると言わざるを得ない。 医師対象ではない、理科や工科、あるいは文科の勉強会であれば、交通費は自己負担か、あるいは大学など所属機関の負担とするのが当然である。 なぜならば、それは「勉強会」なのであって、自分のために参加するのであって、主催者のために参加しているわけではないからである。

なお、北陸医大の某診療科では、基本的に、あるいは全く、そうした弁当を食べない医師もいる。 その人が、そういう理由で断っているのか、あるいは別の理由があるのかは、知らぬ。


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