これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/03/28 BLNAR インフルエンザ菌

俗にインフルエンザ菌と呼ばれる細菌は、インフルエンザとは何の関係もない。 歴史的な混乱により、そのように命名されたに過ぎぬ。 学名は Haemophilus influenzae という。

Gilbert DN et al., The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy, 47e (2017). によれば、 H. influenzae は、ペニシリン G には耐性であるが、同じペニシリン系抗菌薬のアンピシリンには、株によっては感受性がある。 具体的には、吉田眞一他編『戸田新細菌学』改訂 34 版によれば、一部の株はペニシリナーゼ、つまりアンピシリンを含めペニシリン系抗菌薬を分解する酵素を産生するのである。 しかし、ペニシリン系と同じ βラクタム系抗菌薬であっても、セフェム系はペニシリナーゼによって分解されないから、 古典的な H. influenzae は、セフェムに感受性である。

しかし近年、特に日本においては、ペニシリン結合蛋白質の変異によるアンピシリン耐性株が広まっており、 BLNAR (β-Lactamase Non-producing Ampicillin Resistant) と呼ばれる。 この BLNAR も、典型的にはセフトリアキソンなどには感受性である。

さて、本日の話題は、BLNAR による肺炎に対し、アンピシリン、またはスルバクタム / アンピシリン合剤を治療薬として選択することの是非である。 単純に考えれば、BLNAR はアンピシリン耐性なのだから、アンピシリンは無効と思われるので、これを治療薬として用いるのは不適切であるように思われる。 しかし現実には、BLNAR に対してスルバクタム / アンピシリン合剤は有効とする意見があり (成相昭吉, 小児感染免疫, 18, 359-363 (2006).) 私自身も、BLNAR による肺炎に対してスルバクタム / アンピシリンが奏効したと考えられる症例をみたことがある。

思慮の浅い学生や研修医の中には「奏効することもある」という事実に満足する者もいるが、それは、いけない。 世の中の現象には、必ず原因がある。「そういうこともある」という説明に納得するのは、反科学的であり、医師としてふさわしくない。

まぁ、感染症学に造詣の深い人であれば、BLNAR に対してアンピシリンが奏効する理由について、すぐに想像がつくであろう。

詳細を記載しようと思ったのだが、今日は時間がとれないので、明日にしよう。


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