これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
昨日、男女差別について久しぶりに書いたので、その勢いで、本日は同性愛等を巡る問題について書く。 朝日新聞社は、その偏った報道姿勢について昔から批判されてきたが、記事の文章の質自体は高かったように思われる。 しかし近年では記者の水準が低下しているようで、言葉をろくに扱えていない記事が目立つ。
朝日新聞 digital の 2 月 26 日付記事に LGBT らに優しいトイレ 東京五輪に向け都が計画というものがあった。 性別適合手術を受けていない性同一性障害患者などをはじめとして、公衆トイレを使用するに際して性別上の問題が生じやすい人を念頭に置いた 男女共用トイレを増設することを都が計画している、という内容である。 なお「性同一性障害」という語については、「性別違和」に置き換えようとする動きがあるが、これは疾患の本態を見失った不適切な変更であるように思われる。
さて、この記事でも用いられている LGBT という語は、女性同性愛者 Lesbian, 男性同性愛者 Gay, 両性愛者 Bisexual, トランスジェンダー Transgender の頭文字から作られた語である。 トランスジェンダーの定義は曖昧であるが、性同一性障害患者がこれに含まれることには異論の余地がない。
上述の記事で問題にしているトイレの件は、専らトランスジェンダーについてのものであって、同性愛者等は無関係である。 従って、これを「LGBT らに優しいトイレ」と表現するのは明確な誤りである。LGB は関係ないのである。 こうした不適切な表現は、単に記者の作文能力が低いことを示しているだけでなく、記者や朝日新聞社が LGBT に対して無理解であることをも示している。 おそらく、日本国民の多くは、表面的には LGBT も個性の範囲として認められるべきである、というようなことを言いつつも、 裏では「おかしな人」というような目でみているのではないか。
遺憾ながら、こうした問題に無理解な医師も少なくない。むしろ、世間一般よりも差別主義者が多いかもしれぬ。 医学科のカリキュラムにおいては、こうした疾患群については、ほとんど扱われないことが多いようである。 その上、医者という人種は基本的に倫理観が高くないので、LGBT などの患者を陰で小馬鹿にするような発言をする者も稀ではない。
なお、LGBT は病気ではない、と主張し、「患者」という私の表現に反発する人もいるであろう。 しかし、LGBT は病気である。 医学書院『標準精神医学』第 6 版 (2015). では、疾病 illness を
本来の生理的機能が働かなくなり, その結果生存に不利な状態をいう. この場合, 「どのくらいの人数がそのような状態になっているか」は問題とされず, 「苦しんでいる」という事態のみを問題にするので, これは平均基準ではなく, 明らかに価値基準である.
としている。あなた方は、現に、LGBT ゆえにしばしば理解されず、社会において苦しめられているのであるから、これは立派な病気である。 言うまでもないことだが、病気だから劣っているとか、病気だから社会的に低く扱われても仕方ない、ということはない。 ただ、あなた方は苦しんでいる、という事実を表しているに過ぎない。 もちろん、病気だからといって、治すべきだというわけでもない。