これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/02/26 もらえるものは、もらっておく

医者という人種が、現実には大した倫理観も高潔さも持ち合わせていない、という事実は、世間に広く知られているであろう。 特に、金銭まわりは、かなり汚い。

そもそも、医者は高い給料をもらって当然だ、というような認識が広まっていること自体、異常である。 医者といっても、いわゆるゴッドハンドの外科医や神の眼を持つ病理医が高給をもらうことは自然であるかもしれないが、 ごく普通の平凡な医者が、年に 1000 万だとか 3000 万だとかの収入を得ることは、到底、妥当であるとはいえない。 給与の一部を返納せよ、とまでは言わぬが、そこに申し訳なさすら感じないようでは、社会常識が欠落しているとの批判を免れ得ない。

大学病院の医者は、多くの場合、副業として市中病院の非常勤医を兼ねている。 この副業からの収入は莫大で、安くとも時給 1 万円程度である。非常識である。 そうして得た収入を、使途の制限のない自由な研究費などに投入する医学者もいるが、大抵の場合、個人の享楽のために使うようである。 たとえば、「この病院の超音波検査装置は古くて性能が悪い」などと愚痴をこぼす医者は多くても、 私費で超音波検査装置を購入して病院に供与する医者は稀である。

要するに「もらえるものは、もらっておく」という発想なのである。 製薬会社から供与される弁当や物品にせよ、病院等からの給与にせよ、もらって何が悪い、というのである。 北陸医大 (仮) でも、医者同士が金儲けの話をしているのを聞く機会は稀ではない。少なくとも、臨床に直結しない医学談義をしているのを耳にするよりは、圧倒的に頻度が高い。 それが悪いとは言わぬが、それで、あなた方の尊厳は傷つかないのか。

物事の本質を捉えず、表面だけ繕うことに長けた一部の者は「君だって、その高い給料を、受け取るのだろう?」と指摘して、私を黙らせようとする。 確かに私も、給与を返納しようとは思わない。返納したところで、何かが改善するわけではないからである。 世間の人々も、私が給与を返納することを期待しているわけではないだろう。 ただし、その過剰な給与を、自身の娯楽や悦楽のためには用いない、ということは心に決めている。 研修医のうちは書籍費などに、また相応の立場についた後には、使途に制限のない財源として研究・臨床の環境整備のために、投入する所存である。 そうでなければ、私は、かつての同志たる原子炉物理学界の人々に蔑まれる。それは、我慢ならぬ。

私は、もとより医者が嫌いであった。医者になど、なりたくもなかった。現在も、医者であること自体には何らの誇りも抱いていない。 しかし諸君は、違うであろう。医師に憧れ、理想を抱いて、この道を歩んで来たのではないのか。 中には、親や教師の言いなりになって医学科に入り、医師になった者もいるだろうが、それでも、医師という職業に魅力を感じていたはずである。 あの頃の純真な心を、一体、どこに置いてきたのか。

本当に、それで良いのか。あなた方は、そういう医者に、なりたかったのか。


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