これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/03/27 出ていけ

我々は、もうすぐ、医師生活二年目に突入する。 初期研修修了後の進路についても、徐々に固まってきた者が多いようである。 もちろん私は、名古屋大学に入る前から「病理」と決めており、五年生の前半に一時的に迷ったものの、その後は微塵も揺らいでいない。

北陸医大 (仮) には、県内出身者で、ずっと県内で生きてきた者も少なくない。 そして、今後も県内で生きていこうとしている者も、稀ではない。 地元愛が強いのは悪いことではないが、私は、そういう人に対して「一度、外に出てはどうかね」と勧めることにしている。 県外に出て、いずれ専門医資格を取得した後ぐらいに、なお地元に対する愛があるならば、戻ってくれば良いのである。

私は何も、我が県の環境が悪いから出ていけ、と言っているわけではない。 一般論として、一箇所にずっと留まり続けることが悪い、と言っているのである。 東京出身者が東京に留まり続けることも、名古屋出身者が東海地方で一生を費すことも、等しく、悪い。

具体的に何がどう悪いのかを説明することは、できない。漠然と「視野が狭まる」としか、言えない。 白状しておくと、この「一箇所に留まるな」というのは私のオリジナルではなく、京都大学一年生の頃に、 誰であったかは覚えていないが「物理工学総論」という科目で出会った、ある教員からの受け売りである。 彼は我々に対し、いかなる場所であれ十年以上は留まるな、と教えた。 それに盲目的に従ったわけではないが、私は京都大学は 9 年、名古屋大学は 4 年で離れたし、北陸医大も 8 年ぐらいで一旦、去ろうと思っている。

生まれ育った土地に留まることは、安楽であろう。 残ることを正当化する理由も、探そうと思えば、いくらでもみつかるであろう。 医師免許の壁に守られていれば、一生を安寧のうちに送ることも、たぶん可能である。 もちろん、今後に予想されるコンピューター技術の進歩は、病理診断医や放射線診断医に暗黒時代をもたらし、嵐を耐え忍ぶことを強いるであろう。 しかし手技を身につけた内科医や外科医であれば、現在のような社会的・経済的な恩恵は剥奪されるべきであるとしても、 少なくとも技師に準ずる立場として生き残ることはできよう。 北陸でひっそりと一生を送るだけなら、諸君にとっては、何の苦難もない。

しかし、それで良いのか。満足なのか。 諸君の野心は、その程度であるか。

今後の北陸医大を支える側の立場から申し上げれば、もちろん、諸君が我が大学の「医局」に残ってくれると、実に助かる。 しかし、自大学出身者の「残留」に頼るような大学に、未来はない。 我が北陸医大は、開学以来四十余年の歴史において、全国から人材を集められる魅力的な大学を築かんと尽力してきた。 ただ地域を支える医師を育成するためだけの矮小な地方大学とは、志が違う。 そういう大学を創りたい、と希うならば、ぜひ、残られるが良い。


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