これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
過日、北陸医大 (仮) で、主に医学科 5 年生を対象とした進路説明会のような催しがあった。 我々研修医に対しても案内があり、私も出席したのだが、大半の研修医は欠席であった。 この会では、新専門医制度についての説明などが行われたのだが、大学側としては、大学病院の研修医を確保する意図もあったものと思われる。
会の冒頭で副院長は、医師にとって重要な能力として「考える力」を挙げ、それを身につける場として大学病院の環境が優れていることを主張した。 また、某外科の教員も、自科の専門医制度の説明に際して、この副院長の発言に対する援護射撃を行っていた。 私も、彼らの意見に全面的に同意する。
遺憾であったのは、この会では、まるで北陸医大の卒業生は県内の病院や、いわゆる関連病院で研修を受けるのが当然であるかのような前提で話が行われていたことである。 冷静に考えれば、卒業生が県内に留まる必要はないし、実際、半数以上の者は県外で初期研修を受けている。 そういった人々を黙殺するかのような調子で、会は進んでいったのである。 もちろん、これは、県内の医師を確保せねばならないという大人の事情によるのであって、たぶん、県当局からの「要請」もあるのだと思われる。 が、そんなことは学生や我々の知ったことではない。 私は大学や病院に忠誠を誓っているわけではなく、むしろ学問の下僕である。従って、本件については、大学当局は度量が小さい、と、批判せざるを得ない。
北陸医大の卒業生は、原則として、県外で初期研修を受けるべきである。 北陸医大には良い点もあるが、診療の水準は、遺憾ながら、全国トップレベルとはいえない。 適切とはいえない医療行為が行われることもある。 もちろん、それでも県内では最高水準なのだろうし、社会的に容認される範囲から明らかに逸脱しているとまでは言えないかもしれないが、改善せねばならぬ点は多い。 しかし北陸医大で学生時代を過ごし、北陸医大で初期研修を受けてしまうと、こうした「問題のある医療行為」を疑問に思わなくなってしまうのではないか。 実際、周囲の北陸医大出身研修医と話をすると、医学の常識からすれば論外と言わざるを得ないような医療行為について「やむを得ない」と擁護する者の多いことに驚く。 彼らは「そんなことを言うならお前がやってみろ」「君は臨床を知らないから」などと言うが、そうして現状を擁護して批判を封じ込めようとする限り、北陸医大に未来はない。
この現状を否定し、批判し、自身の手で改革せんとする志を有する者は、ぜひ北陸医大に残ると良い。 そうした開拓者精神と、相応の能力の持ち主にとっては、北陸医大は活躍の場に富んでいるといえよう。