これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/02/15 医者が信用されていない件

過去に何度か書いたが、世間の人々は、あなた方が思っているほどには、医者を信用していない。 そのことは、あなた方が書いた初診時カルテをみれば明白である。

まともな医者が書いた初診時のカルテには「生活歴」あるいは「嗜好歴」といった欄が存在し、そこには、飲酒歴や喫煙歴などが記載されているはずである。 そこをみれば、患者が何歳の時に喫煙を始めたのか、わかるはずである。 私が何を言いたいか、わかるであろう。患者の多くは、カルテ上、20 歳で喫煙を始めているのではないか。 「さぁ、二十歳になった。法律が許すようになったから、今後は酒を飲み、煙草を喫うことにしよう。」というわけである。

もちろん、現実には、そんな人は稀である。 だいたい、遅くとも 18 歳か 19 歳ぐらいで喫煙を始めているのではないか。 早い者であれば高校生、あるいは中学生の頃に喫っているはずである。 なお我が母校にも、喫煙する者は少数ながら存在した。 そして「今はコミュニケーションツールとしての役割もあるだろうから喫煙も否定はしないが、二十歳になったら止めろ。」などと指導する教員もいた。 これは、正しい教育であると思う。

閑話休題、患者が虚偽の申告をすることを「仕方ないではないか」などと擁護する者は、視野が狭い。 世界をみよ。 海外の症例報告などをみると、法で禁じられている年齢から喫煙していたことが記載されている症例が、多数、存在する。 さらにいえば、違法薬物の使用歴までキチンと問診している例も多い。 日本でも教科書的には、違法薬物についても聴取すべきと記載されているのに、現実には問診できていない医師が圧倒的に多いであろう。 いわゆる脱法ハーブや大麻が一部に蔓延していることを思えば、違法薬物の使用歴を聴取できていない現状は、大いに問題がある。

あたりまえのことであるが、患者が過去の違法飲酒や違法喫煙を申告したからといって、我々がそれを他言したり、当人を叱責したりすることはない。 むしろ、漏らせば守秘義務違反として、我々が罪に問われる。 それなのに、なぜ、みえすいた嘘をつくのか。

要するに、我々医師は、患者から信用されていないのである。 これを「それは嘘をつく奴が悪い。医者の責任ではない。」などと言う者もいるが、そういう人々は医者に向いていないので、免許を返納した方が良い。

なお、患者が麻薬や覚醒剤を使用していることを知った場合に医師がとるべき対応については、法医学上の議論がある。 基本的には警察等への通報義務はないものの、通報しても守秘義務違反にはあたらない、というのが多数意見のようであるが、異論もないわけではない。 この問題については下総精神医療センターの研修情報に面白い記事があった。


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